ゼロ知識証明(ゼロナレッジ証明)のコミュニケーション方式

今回は「ゼロ知識証明(Zero-Knowledge Proof, ZKP)」の続き。「ゼロ知識証明(ゼロナレッジ証明)とは?その2」です。
現代の暗号学において最も革新的で重要な概念の一つと言われるのが「ゼロ知識証明(Zero-Knowledge Proof, ZKP)」。この技術は、秘密情報を一切開示することなく、その情報に関する特定の事実を証明することを可能にするとし世界中で注目されているテクノロジーです。
本記事では、ゼロ知識証明のコミュニケーション方式におけるインタラクティブと非インタラクティブの違い。実装における技術的課題について深堀していきます。
では、さっそくはじめていきましょう!
- 0.1. インタラクティブ vs 非インタラクティブ
- 1. 証明者と検証者とのやり取り
- 1.1.1.1. インタラクティブ・ゼロ知識証明(Interactive ZKP)
- 1.1.1.2. 非インタラクティブ・ゼロ知識証明(NIZK)
- 2. 現在最も実用化が進んでいるゼロ知識証明システム「zk-SNARKs」
- 2.1. zk-SNARKsとは
- 2.1.1. なぜzk-SNARKsが革命的なのか
- 2.1.1.1. zk-SNARKsの特徴
- 2.1.1.2. 最も注目されている理由
- 3. めちゃくちゃ小さい証明データ Groth16
- 3.1.1. Groth16の特徴
- 3.1.2. Groth16はどこで使われているのか?
- 3.1.3. Groth16の構造
- 4. zk-STARKs(Zero-Knowledge Scalable Transparent ARguments of Knowledge)
- 4.1. zk-STARKsとは
- 4.2. zk-STARKsとzk-SNARKs (Groth16など)の違い
- 4.3. zk-SNARKsの課題を解決する新しいアプローチ
- 4.3.1. zk-SNARKs の課題
- 4.3.2. zk-STARKs のアプローチ
- 4.3.3. zk-SNARKs → zk-STARKs への進化
インタラクティブ vs 非インタラクティブ
証明者と検証者の間で複数回のやり取りが必要だということは前の記事でもお伝えしましたが、念の為、再度、インタラクティブと非インタラクティブについて、まとめたものをここにおいておきます。
- ゼロ知識証明は、実際のシステム設計や選択において最も重要な判断基準となるコミュニケーション方式がある。
- コミュニケーション方式とは、ゼロ知識証明において証明者(Prover)と検証者(Verifier)がどのような手順で情報をやり取りするかを定義するもの。
- コミュニケーション方式は大きく2つに分類される。
- インタラクティブ(対話型): 証明者と検証者が複数回やり取りする
- 非インタラクティブ(非対話型): 証明者が一度だけ証明を送信する
証明者と検証者とのやり取り
では、ここからは、証明者と検証者がどんなやり取りを行うのかを解説していきます。
各ラウンドで検証者がチャレンジを送り、証明者がレスポンスを返す様子を具体的な例をまとめましたので、ご覧ください。
インタラクティブ・ゼロ知識証明(Interactive ZKP)
# Schnorr識別プロトコルの例(概念的実装)
class SchnorrProof:
def __init__(self, g, h, p, q):
self.g = g # 生成元
self.h = h # 公開鍵 h = g^x mod p
self.p = p # 素数
self.q = q # 位数
def prove(self, x): # x: 秘密鍵
# 1. コミット
r = random.randint(1, self.q-1)
t = pow(self.g, r, self.p)
# 2. チャレンジを受信
c = self.receive_challenge()
# 3. レスポンス
s = (r + c * x) % self.q
return (t, s)
def verify(self, t, s, c):
left = pow(self.g, s, self.p)
right = (t * pow(self.h, c, self.p)) % self.p
return left == right
非インタラクティブ・ゼロ知識証明(NIZK)
Fiat-Shamirヒューリスティックを使用して、ランダムオラクルモデルの下でインタラクティブプロトコルを非インタラクティブに変換できます。
import hashlib
class NIZKSchnorr:
def prove(self, x, message=""):
r = random.randint(1, self.q-1)
t = pow(self.g, r, self.p)
# Fiat-Shamir変換:チャレンジをハッシュから生成
challenge_input = f"{t}:{self.h}:{message}"
c = int(hashlib.sha256(challenge_input.encode()).hexdigest(), 16) % self.q
s = (r + c * x) % self.q
return (t, s, c)
次からは、実際に使用されているゼロ知識証明システムを解説していきます。
現在最も実用化が進んでいるゼロ知識証明システム「zk-SNARKs」
zk-SNARKsとは
zk-SNARKs(Zero-Knowledge Succinct Non-Interactive ARguments of Knowledge)は、現在最も実用化が進んでいるゼロ知識証明システムです。
名前の意味を分解すると
- Zero-Knowledge: ゼロ知識性(秘密情報を漏洩しない)
- Succinct: 簡潔性(証明サイズが非常に小さい)
- Non-Interactive: 非対話性(一度の通信で完結)
- ARguments: 論証(計算的な困難性に基づく安全性)
- of Knowledge: 知識について(証明者が実際に秘密を知っている)
5つのワードをまとめて、zk-SNARKsと表記しているようですが、、もう覚えにくいというか・・・。まぁ、こんなものがあるよ程度に覚えておきましょう^^
なぜzk-SNARKsが革命的なのか
従来のゼロ知識証明の多くは「理論的には可能だが実用的ではない」という問題を抱えていたのですが、zk-SNARKsはこの問題を解決し、実際のプロダクションシステムで使用可能なレベルの性能を実現したテクノロジーです。
zk-SNARKsの特徴
zk-SNARKsの具体的な特徴を、ざっくりとまとめると以下の4つの特徴にまとめられます。
- 証明サイズ: わずか数百バイト(元の計算がどれだけ複雑でも)
- 検証時間: 数ミリ秒で完了
- 汎用性: 任意の計算を証明可能
- 実績: Zcash、Ethereum、Polygon等で実際に運用中
最も注目されている理由
現在最も注目されているゼロ知識証明の理由についても、まとめておきます。
- Succinct: 証明サイズが小さい(通常数百バイト)
- Non-Interactive: 一度の通信で完結
- Arguments: 計算的安全性(情報理論的安全性ではない)
めちゃくちゃ小さい証明データ Groth16
「Groth16(グロース16)」は ゼロ知識証明(Zero-Knowledge Proof, ZKP) の一種で、特に「zk-SNARK」と呼ばれる方式の中で最も有名で広く使われているプロトコルです。
2016年に Jens Groth が発表した zk-SNARK の改良版で、特徴は以下の通りです。
Groth16の特徴
- 証明サイズがとても小さい
- 証明データは常に 288バイト程度(固定サイズ)
- どんなに大きな計算でも、証明のサイズはほぼ変わらない
- 検証が速い
- 検証コストが低いため、ブロックチェーンのような環境で扱いやすい
- 事前準備が必要(Trusted Setup)
- システムを作る際に「秘密の乱数」を含んだ初期設定が必要
- もしその秘密が漏れたり不正に残されていると、偽の証明を作れるリスクがある
- なので「マルチパーティセレモニー」と呼ばれる手法で安全に準備する
Groth16はどこで使われているのか?
- Zcash(暗号通貨)
トランザクションの送信者・受信者・金額を秘匿したまま「正しく送金された」ことを証明する為に使用。 - Ethereumのzk-rollup
L2での大量の取引をまとめて、正しく処理されたことを小さな証明で確認する為に使用。
Groth16の構造
Setup Phase:
1. 回路C(制約システム)を定義
2. Trusted Setup: 共通参照文字列(CRS)を生成
- 証明鍵 pk, 検証鍵 vk を生成
- トクシックウェイスト τ を破棄
Proving Phase:
証明 π = (A, B, C) ∈ G₁ × G₂ × G₁
Verification:
e(A, B) = e(α, β) · e(∑ᵢγᵢuᵢ, γ) · e(C, δ)
次は、Groth16(zk-SNARKs) と並んでよく比較されるのが zk-STARKs です。
zk-STARKs(Zero-Knowledge Scalable Transparent ARguments of Knowledge)
zk-STARKsとは
zk-STARKsは、Zero-Knowledge Scalable Transparent Argument of Knowledge の略で、ゼロ知識証明の方式のひとつとして2018年ごろに登場しました。
zk-STARKsのポイントはわかりやすく2つ。
- Scalable(スケーラブル) → 大きな計算でも扱える
- Transparent(透明) → 事前の秘密のセットアップ(Trusted Setup)が不要
zk-STARKsとzk-SNARKs (Groth16など)の違い
zk-SNARKs (Groth16など)とよく比較されるものですので、zk-STARKsとzk-SNARKs (Groth16など)の違いについて、その違いを表にまとめてみました。
項目 | zk-SNARKs (Groth16など) | zk-STARKs |
---|---|---|
証明サイズ | 数百バイト程度で超小さい | 数十KB〜数百KBで大きめ |
検証速度 | 速い | さらに速い(証明サイズが大きい分、工夫次第) |
セットアップ | Trusted Setup が必要 | 不要(透明性が高い) |
安全性 | 量子コンピュータに弱い | 量子耐性あり |
用途 | プライバシー通貨(Zcashなど)、zk-Rollup | zk-Rollup、データ圧縮、大規模計算証明 |
zk-SNARKsの課題を解決する新しいアプローチ
zk-SNARKs の課題
zk-SNARKs(例:Groth16)は優れた技術ですが、以下のような弱点がありました。
- Trusted Setup が必要
- システムを作るときに「秘密の乱数」を使って初期設定(セレモニー)をする必要がある
- もし秘密が漏れたり、誰かが不正に保持していたら、偽の証明を作れてしまうリスクがある
- 量子耐性がない
- zk-SNARKs は楕円曲線暗号に依存している
- 量子コンピュータが実用化されると破られる可能性がある
- スケーラビリティに限界がある
- 証明サイズは小さいが、大規模な計算を証明する際に生成コストが高くなりやすい
zk-STARKs のアプローチ
zk-STARKs はこれらの課題を解決するために設計されています。
- Trusted Setup を不要にした(Transparent)
- ハッシュ関数や多項式コミットメントを使い、秘密情報に依存しない
- これにより「初期設定セレモニーのリスク」から解放された
- 量子耐性を確保(Post-Quantum)
- ハッシュ関数ベースの設計により、量子コンピュータでも簡単には破れない
- 「ポスト量子暗号」として将来性が高い
- スケーラブルな設計(Scalable)
- 証明サイズは大きくなる(数十KB〜数百KB)けれど、計算の増加に対して生成・検証が効率的
- 大規模な計算の正しさを効率的に証明できる
zk-SNARKs → zk-STARKs への進化
zk-SNARKs:軽量・高速だけど「秘密の初期設定」や「量子耐性の欠如」が課題
zk-STARKs:サイズは大きいが「安全」「透明」「未来志向」
言い換えると、zk-STARKs は「zk-SNARKs の弱点(Trusted Setup・量子脆弱性・スケーラビリティ)を克服した次世代のゼロ知識証明方式」ということになります。
解説記事「解説:ゼロ知識証明(ゼロナレッジ証明)~インタラクティブ vs 非インタラクティブ」の続きは
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監修

株式会社APPSWINGBY CTO 川嶋秀一
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