データ統合なくしてAI活用なし:サイロ問題を解決する実践的アプローチ

データ統合なくしてAI活用なし:サイロ問題を解決する実践的アプローチ

今、世界中の企業がAIの開発と導入を加速されていますが、データが様々なシステムに独立して保存されていることが、AI導入の際の大きな壁となってることが、問題となってきていることが明らかになってきました。

本記事では、「データ統合なくしてAI活用なし:サイロ問題を解決する実践的アプローチ」と題して、企業のAI導入を阻む課題について解説していきます。

では、さっそくはじめていきましょう!

AI活用を阻むデータサイロの実態

 データサイロとは

AI活用を阻むデータサイロの実態をご紹介する前に、”サイロ”、”データサイロ”について簡単にご紹介します。

データサイロ(Data Silo)とは、組織内の特定の部門やチームによって管理され、他の部署から孤立した状態で保存されているデータリポジトリ、データの集合体データの集合体を指します。

本州ではあまり見かけることはありませんが、北海道をドライブしているとサイロと呼ばれる縦長の筒状の建物を見かけることができます。これが穀物を貯蔵する為の倉庫、サイロです。

サイロ

この農場のサイロ(穀物貯蔵庫)をデータの貯蔵庫と見立てたのが、データサイロと呼ばれるデータの集合体なのですが、実際のサイロも外部から遮断されて穀物を保存しているように、データサイロ内の情報は他のシステムやユーザーから切り離され、アクセスや共有が困難な状態になっています。

つまり、データサイロの最も深刻な問題は、データが物理的に存在していても、実質的には「使えない資産」になってしまうという点です。

米大手の調査会社の2025年の調査によれば、従業員一人当たり週に12時間もの時間をサイロに閉じ込められたデータの検索に費やしており、企業によっては年間収益の20〜30%に相当する損失が発生しているケースもあると報告されています。

レガシーシステム、部門最適化、M&Aによる技術スタックの分断

データサイロは決して偶然に発生するものではありません。その背景には、企業の成長や進化に伴う構造的な要因が存在します。

主要なデータサイロ問題の発生メカニズムについてまとめてみたのが以下の表です。

データサイロの主要な発生原因

発生原因具体的な状況ビジネスへの影響
レガシーシステム・旧式のプログラミング言語(COBOL、RPG、PowerBuilder等)で構築
・最新のAPIやプロトコルに非対応
・モノリシックアーキテクチャで拡張性が低い
・保守に専門技術者が必要で高コスト
・クラウド統合が困難
・データ移行のリスクが高い
部門最適化・各部門が独自のIT予算で最適化されたシステムを導入
・営業、マーケティング、カスタマーサポートが別々のCRMを利用
・部門間の連携やデータ共有の欠如
・顧客の360度ビューが不可能
・重複データの発生
・意思決定の遅延
M&Aによる統合失敗・買収企業と被買収企業の異なる技術スタック
・データフォーマットや命名規則の不統一
・統合作業の優先順位が低い
・シナジー効果の実現遅延
・統合コストの増大
・新たなサイロの創出
マルチクラウド環境・AWS、Azure、GCP、オンプレミスにまたがるデータ分散
・各クラウドプロバイダー固有のサービス利用
・クラウド間のデータ移動コスト
・データガバナンスの複雑化
・セキュリティリスクの増大
・運用コストの増加
SaaSアプリケーションの乱立・営業はSalesforce、マーケティングはHubSpot、人事はWorkday
・各SaaSが独自のデータモデルを持つ
・ネイティブ統合機能の不足
・データの重複と不整合
・業務プロセスの分断
・全社的な分析が困難
データサイロの主要な発生原因

ざっくりと挙げただけでも様々な問題を内包しているデータサイロ問題ですが、特に深刻なのがレガシーシステムの問題と言われています。

米のソフトウエア企業は、ある企業が60,000以上のデータ変換ジョブ、37,000のレポートとワークフロー、16の地理的拠点にまたがる分断されたシステムを抱えており、オンプレミスのDB2インフラストラクチャに依存していたため、クラウド統合が著しく困難だったといった事例を報告していています。

このような状況では、保守と近代化のコストが膨大になり、AI活用どころではなくなってしまうことでしょう。

サイロ化の3つの層

データサイロは単一の次元で理解できる問題ではありません。

実際には、3つの異なる層でサイロ化が発生しており、それぞれが独自の課題を生み出しています。最新の研究によれば、データサイロは組織的、技術的、文化的要因の組み合わせによって発生していると指摘されています。

1. 技術的サイロ(Technical Silos)

まず、一つ目は”技術的サイロ(Technical Silos)”と呼ばれる層です。

技術的サイロは、異なる技術スタック、データフォーマット、通信プロトコルによって物理的にデータが分断されている状態と定義され、具体的な技術的サイロの現れ方は次の通りとなっています。

  • データベースの非互換性:Oracle、SQL Server、MySQL、MongoDB、Cassandraなど、異なるデータベースシステムが混在し、それぞれが独自のデータモデルとクエリ言語を使用
  • プロトコルの不一致:REST API、SOAP、GraphQL、gRPC、メッセージキューなど、システム間の通信方法が統一されていない
  • データフォーマットの相違:CSV、JSON、XML、Avro、Parquet、固定長ファイルなど、データの表現形式がバラバラ
  • リアルタイム vs バッチ処理:一部のシステムはリアルタイムストリーミング処理、他はバッチ処理のみ対応で、データの鮮度に大きな差

技術的サイロのAIへの影響は、機械学習モデルのトレーニングに必要な統合データセットの構築が困難であること。そして、データ変換処理に開発工数の60〜80%を消費することなどが考えられます。

2. 組織的サイロ(Organizational Silos)

二つ目は、組織的サイロ(Organizational Silos)と呼ばれる層です。

組織的サイロ(Organizational Silos)の定義は、部門間の壁、縦割り組織構造、情報共有の文化的障壁によってデータアクセスが制限されている状態とされています。

組織的サイロ(Organizational Silos)の具体的な表れ方についてもリスト形式でまとめてみました。

  • 部門最適化の罠:営業、マーケティング、カスタマーサポート、製造、財務などの各部門が独自のKPIに基づいて最適化されたシステムを運用
  • データオーナーシップの不明確さ:誰がどのデータに責任を持つか定義されておらず、データ品質管理が属人化
  • 情報の囲い込み:部門間の競争意識や縄張り意識により、データが意図的に共有されない「サイロメンタリティ」の存在
  • 集中化 vs 分散化のジレンマ:データ所有権を一つのチームに集中させると非効率、分散させるとガバナンスが困難

AIへの影響もまとめます。

  • 顧客の360度ビューが構築できず、AIによるパーソナライゼーションやレコメンデーションの精度が低下。
  • クロスファンクショナルなAIプロジェクトの推進が困難。
3. 意味的サイロ(Semantic Silos)

最後は、意味的サイロ(Semantic Silos)です。

意味的サイロ(Semantic Silos)は、同じ概念を異なる用語で表現したり、同じ用語を異なる意味で使用したりすることで、データの意味的な統一性が失われている状態と定義されています。

意味的サイロ(Semantic Silos)の具体的な現れ方についてもリストでご紹介します。

  • 用語の不統一:「顧客」を”Customer”、”Client”、”Account”、”Consumer”など部門ごとに異なる名称で呼ぶ
  • 計算ロジックの相違:「売上」の定義が部門によって異なる(税込 vs 税抜、返品処理のタイミングなど)
  • メタデータの欠如:データの定義、由来、更新頻度、信頼性などのコンテキスト情報が文書化されていない
  • マスタデータの不統一:顧客マスタ、商品マスタ、組織マスタなどが複数のシステムで別々に管理され、整合性が取れていない
  • データリネージの不明瞭さ:データがどこから来てどこへ流れていくか(データ系譜)が可視化されていない

AIへの影響についてもまとめます。

この3つの層が複雑に絡み合っているため、データサイロ問題の解決は単純な技術的統合だけでは達成が非常に困難なものとなります。

つまり、技術、組織、そして意味論の3つの次元で同時にアプローチする必要になるのです。

次回は、「数字で見るデータサイロの経営インパクト」について解説します。

APPSWINGBYは、最先端の技術の活用と、お客様のビジネスに最適な形で実装する専門知識を有しております。システムのセキュリティ対策としてのシステムアーキテクチャの再設計からソースコードに潜むセキュリティ脆弱性の改修の他、リファクタリング、リアーキテクチャ、DevOps環境の構築、ハイブリッドクラウド環境の構築、テクノロジーコンサルティングサービスなど提供しています。

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この記事を書いた人
株式会社APPSWINGBY
株式会社APPSWINGBY マーケティング

APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。

ご支援業種

情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

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監修
APPSWINGBY CTO川嶋秀一
株式会社APPSWINGBY  CTO 川嶋秀一

動画系スタートアップや東証プライム上場企業のR&D部門を経て、2019年5月より株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTO。
Webシステム開発からアプリ開発、AI導入、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトまで幅広く携わる。
C, C++, C#, JavaScript, TypeScript, Go, Python, PHP, Java などに精通し、Vue.js, React, Angular, Flutterを活用した開発経験を持つ。
特にGoのシンプルさと高パフォーマンスを好み、マイクロサービス開発やリファクタリングに強みを持つ。
「レガシーと最新技術の橋渡し」をテーマに、エンジニアリングを通じて事業の成長を支えることに情熱を注いでいる。

APPSWINGBY CTO川嶋秀一
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動画系スタートアップや東証プライム上場企業のR&D部門を経て、2019年5月より株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTO。
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