プロジェクトを成功に導くリアーキテクチャとプロジェクト計画

プロジェクト失敗を回避するリアーキテクチャ計画:企業ITの部門担当者が知るべき要点

1.【はじめに】リアーキテクチャ計画の重要性とは?

ITシステムは、企業のビジネス活動における重要な基盤です。しかしながら、複雑化・老朽化したシステムによりプロジェクトが失敗に終わるケースは後を絶ちません。中~大企業においても、この問題に直面している開発部門は少なくないでしょう。

本記事では、既存の老朽化したモノリシックなシステムをモダンで柔軟性の高いクラウドネイティブなシステムへのリアーキテクチャプロジェクトにおいて、どのようにプロジェクトの失敗を回避し、プロジェクトを成功へ導くのかについてのノウハウをご紹介します。

ITプロジェクト失敗率の現状とその原因

ITプロジェクト失敗率の実態

リサーチ大手のG社やS社の調査によると、ITプロジェクトの70%以上がスケジュール遅延、予算超過、または目標未達のいずれかを経験しているとの調査結果を公開しています。特に中~大企業では、プロジェクトの規模が大きいほどリスクが増加し、システム刷新や新規開発プロジェクトが思うように進まない状況が多く見受けられます。

主な失敗原因

何故、多くのITプロジェクトで大小様々な失敗を経験することになるのでしょう。ITプロジェクトが失敗に終わる(失敗を経験する)背景には、以下のような要因が挙げられます。

  1. 技術負債の蓄積
    長年運用されてきたシステムでは、技術的負債が蓄積し、新機能開発や拡張が困難になりがちです。レガシーコードや古い技術スタックは、新しい要求に対応する際に大きな障壁となります。
  2. 要件定義の不明確さ
    ビジネス部門とIT部門間のコミュニケーション不足により、具体的な目標や必要機能が曖昧なまま進行するプロジェクトが失敗を招きます。
  3. リスク管理不足
    大規模プロジェクトほど、リスクの管理が難しくなります。特に、スケジュールや予算、セキュリティ要件を軽視したプロジェクトは、途中で頓挫する可能性が高いです。
  4. 開発プロセスの非効率
    手動作業が多い開発プロセスや、非効率な運用体制では、プロジェクト全体のスピードが低下し、競争優位性を損なう結果となります。

これらの課題を克服し、プロジェクト成功へと導くには、システム全体の構造を見直し、根本的なアプローチが求められます。

リアーキテクチャでビジネスを加速させる

ここで少しだけ、リアーキテクチャ(Re-Architecture)についてご紹介しておきます。

リアーキテクチャ(Re-Architecture)は、単なるコードの修正や最適化ではありません。既存のシステムアーキテクチャ全体を再設計し、最新の技術や手法を取り入れながら、ビジネス要件や技術要件に最適化された構造へと進化させるプロセスです。

リアーキテクチャの要点を簡単にまとめると以下5つ点が挙げることができます。

  1. 技術負債を削減し、柔軟かつ拡張性の高いシステムを構築することができる。
  2. クラウドネイティブやマイクロサービスアーキテクチャの採用による効率的な運用を行うシステム基盤をつくることができる。
  3. 管理しなければならないセキュリティポイントが減ることでセキュリティリスクを低減させることができる。
  4. 最新のコンプライアンス要件への対応が容易。
  5. アジャイル開発やCI/CDの導入によるスピーディな開発プロセスの構築と品質の高いシステムの実現、迅速なリリース体制を構築することができる。

リアーキテクチャがビジネスを加速させる理由

リアーキテクチャがビジネスを加速させる理由は、次の3点に集約されます。

  1. 根本的な課題解決が可能になる
    リアーキテクチャは、技術負債を解消するだけでなく、システム全体の制約を取り払い、ビジネスニーズに柔軟に対応できる土台を作ります。これにより、新規機能の開発やシステム拡張がスムーズに進行し、プロジェクトの成功確率が飛躍的に向上します。
  2. プロジェクト管理が効率化される
    モダンアーキテクチャを導入することで、段階的なリリースが可能となり、リスクを最小限に抑えつつプロジェクトを進行できます。また、運用・保守負荷が軽減されるため、エンジニアが新機能開発や価値創造活動に集中できる環境を提供します。
  3. 長期的な競争力を確保できる
    リアーキテクチャにより、クラウドネイティブやマイクロサービスアーキテクチャを採用することで、スケーラビリティや可用性を向上させ、長期的な競争優位性を確保できます。これにより、新しい市場機会への迅速な対応や、変化する顧客ニーズへの即応が可能になります。

リアーキテクチャは、これまで経験してきた大小様々なITプロジェクトの失敗やシステム内の至る所に潜むリスクを大幅に軽減し、ビジネスを成功へ導くための強力な施策のひとつとなる有力な手法です。

2.リアーキテクチャ計画を成功させるための基本ステップ

リアーキテクチャを成功させるためには、単に技術的な要素を見直すだけでは不十分です。まずは現状のシステムやビジネスの状況を正確に把握し、具体的な計画と実行ステップを明確にすることが求められます。本章では、リアーキテクチャ計画を進めるうえでの基本ステップを詳しく解説します。

現状分析:技術負債と課題を明確化する

なぜ現状分析が必要なのか?

リアーキテクチャを成功させる第一歩は、現状のシステムに存在する技術負債や課題を明確にすることです。

システムが複雑化・老朽化している場合、どこに問題があるのかを正確に把握せずに進めると、見えないリスクを見落とし、リアーキテクチャ後に新たな問題が発生する可能性があります。徹底した現状分析が、プロジェクトの成功を左右する重要なステップです。

どうしても現状分析に多くの時間やコスト(工数)をかけたくないという方がいらっしゃいますが、リアーキテクチャを成功させる上で必要不可欠な工程になりますので、現状分析についての十分な理解をすすめることと、もし必要であれば社内での理解を進めておく必要があります。

技術負債と課題を洗い出すポイント

技術負債と課題を洗い出すポイントについて、ご紹介しておきます。

余談ですが、技術負債という言葉は聞きなれない言葉ですので、今一ピンとこないかと思いますが、過去に経験してきた様々な技術負債が引き起こす失敗やリスクを以下のポイントと一緒に考えてみるのも良いかもしれません。

  1. システムアセスメント
    まずは、現行システムのアセスメントを行います。これには、技術的負債の特定、コードの品質チェック、依存関係の分析などが含まれます。システムの各コンポーネントがどのように結びついているのか、特に障害や遅延が発生しやすい部分を特定することが重要です。
  2. パフォーマンスとスケーラビリティの分析
    システムの負荷テストを実施し、パフォーマンスボトルネックを洗い出します。現在のアーキテクチャでは拡張性に限界があり、特にトラフィックの急増や新機能追加に対してどの程度耐えられるかを評価します。
  3. セキュリティとコンプライアンスのチェック
    セキュリティ上の脆弱性が潜在的に存在していないか、また、法的・規制要件に適合しているかを検証します。特に、金融や医療といった業界では、セキュリティとコンプライアンスの確保が最優先課題です。
  4. ビジネスプロセスとの整合性
    現行システムが現状のビジネスプロセスにどのように対応しているか、また今後のビジネス戦略にどの程度フィットしているかを確認します。リアーキテクチャは、単なる技術的な刷新ではなく、ビジネスに最適なシステムを再構築することを目的としています。

この現状分析によって、システムの改善すべき点や優先順位が明確になり、具体的な計画立案へとつなげることができます。

ビジネス要件の整理と優先順位の決定

ビジネス要件を反映したリアーキテクチャ計画

リアーキテクチャの計画は、単なる技術的な再設計にとどまらず、企業のビジネス目標や戦略にしっかりと根ざしたものにする必要があります。そのためには、ビジネス要件を詳細に整理し、どの機能がどのような価値を提供するかを明確に定義することが欠かせません。

要件整理のプロセス

  1. ステークホルダーインタビュー
    ビジネス部門、IT部門、運用部門など、システムの利用者や関係者から直接ヒアリングを行い、システムに期待する機能や改善点を洗い出します。これにより、異なる部門間での期待値のズレをなくし、共通の目標を設定できます。
  2. 業務プロセスとIT要件のマッピング
    各ビジネスプロセスに対応するIT要件を明確にし、リアーキテクチャによってどの部分を強化・改善するかを具体化します。このステップでは、業務効率を上げるために必須となる機能や、新規サービスに対応するための拡張性が特に重要なポイントです。
  3. 優先順位の設定
    要件の優先順位を決める際には、ROI(投資対効果)を考慮することが重要です。どの機能を先に改善・導入することで、短期的にビジネスインパクトが得られるのかを見極めます。また、システム全体への影響を考慮し、リスクの高い部分から手をつけることで、リアーキテクチャ全体の成功率を高めることができます。

このように、ビジネス要件を正確に捉えることで、リアーキテクチャ計画が単なる技術プロジェクトにとどまらず、企業の戦略的なプロジェクトとして位置付けられるようになります。

段階的な計画策定とロードマップ作成

段階的移行の重要性

リアーキテクチャは大規模なプロジェクトになることが多いため、一度にすべてを変革しようとするのはリスクが大きく、現実的ではありません。そのため、段階的な移行が成功の鍵となります。小さく始めて、テストを行いながら少しずつ範囲を拡大することで、リスクを抑えつつ効果を実感できます。

ロードマップ作成のポイント

  1. プロジェクトのフェーズ分け
    リアーキテクチャを複数のフェーズに分け、初期段階で基盤を整備し、その後、徐々に機能追加や改善を進めていくアプローチが有効です。各フェーズごとに明確な目標と成果を設定し、進捗を定期的に確認することで、プロジェクト全体の管理が容易になります。
  2. リスクの分散
    影響範囲の大きい機能から着手し、より短期間で成果が得られる部分を最初に改善します。これにより、プロジェクト初期段階で成果を確認でき、関係者間の信頼を構築できます。
  3. リリース計画とテスト戦略
    新たなアーキテクチャを導入する際には…

次回は、ロードマップ作成のポイントの続き、具体的な技術や手法、そして成功事例を通じて、リアーキテクチャ計画をどのように実行するかについて詳しく解説していきます。

もし本記事を読み、貴社システムのリアーキテクチャをご検討されているのであれば、ぜひお気軽にお問い合わせフォームからご連絡ください。私たちが持つ専門的な知見と経験を活かし、最適なリアーキテクチャプランをご提案させていただきます。

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この記事を書いた人

株式会社APPSWINGBY

株式会社APPSWINGBY マーケティング

APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。

ご支援業種

情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

監修

APPSWINGBY CTO川嶋秀一

株式会社APPSWINGBY
CTO 川嶋秀一

動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。