マイクロサービス化による基幹システム刷新戦略

マイクロサービス化による基幹システム刷新戦略

本稿では、「マイクロサービス化による基幹システム刷新戦略」と題して、マイクロサービス移行における投資対効果を定量的に評価し、経営判断に必要な情報を解説します。

では、さっそくはじめていきましょう!

マイクロサービス移行の投資対効果

現代の基幹システム、システム刷新において、マイクロサービス化は単なる技術的な選択肢ではなく、競合優位性を確保するための戦略的投資として位置づけられます。

システムを刷新する際に経営陣が最も気にするポイントのひとつがROI(投資対効果)です。

モノリシックなシステムや数えきれない程のEC2が乱立するシステムからマイクロサービス化にアーキテクチャを変更することによって、どれ程のROIを生み出すことができるのでしょうか。

ROI算定の具体的手法と期待値設定

まず、マイクロサービス化による投資対効果(ROI)は、従来のシステム更改とは異なる評価指標を用いて算定する必要があります。

IT投資を行った企業の約60%が投資効果の測定に課題を抱えている現状において、マイクロサービス化特有のROI算定手法を確立することが重要になります。

マイクロサービス化特有のROI算定手法

直接的効果の定量化

マイクロサービス化による直接的な効果は、「開発生産性向上効果」など、以下の5つの主要指標で測定可能です。

  1. 開発生産性の向上
    • 指標: 開発サイクルタイムの短縮、デプロイ頻度の増加、バグ修正にかかる時間の短縮
    • 算出方法: 開発チームのタスク完了までの平均時間を測定し、マイクロサービス化以前と比較。また、CI/CDパイプライン導入による自動化効果を金額換算し、人件費削減分として算出します。
    • 期待値: サービスごとに独立した開発・デプロイが可能になることで、開発サイクルタイムが平均で30%以上短縮されるケースが多く見られます。
  2. 運用・保守コストの削減
    • 指標: インフラコストの最適化、障害対応時間の短縮
    • 算出方法: コンテナ化やサーバーレス化によるリソース利用効率の向上分を金額換算。また、サービス間の疎結合化により、障害発生時の影響範囲が限定されることで、復旧にかかる時間を短縮し、その工数削減分を算出します。
    • 期待値: クラウドインフラ利用料が20%程度削減され、障害対応時間が50%以上短縮される可能性があります。
  3. スケーラビリティとパフォーマンスの向上
    • 指標: 特定機能に対するリソースの柔軟な割り当て、応答速度の向上
    • 算出方法: アクセス集中時や繁忙期に、必要なサービスだけをスケールアウトすることで、不要なリソースコストを削減。また、システム全体の応答速度の向上によるユーザーエクスペリエンス改善を、コンバージョン率や離脱率の改善効果として金額換算します。
    • 期待値: ピーク時のレスポンス時間が数秒からミリ秒単位に短縮され、ビジネスチャンスの損失を防ぎます。
  4. 技術的負債の削減
    • 指標: 既存システムの改修・拡張にかかる工数の削減、新規技術の導入容易性
    • 算出方法: モノリシックなシステムでは困難であった機能追加や技術スタックのアップデートが、マイクロサービス単位で容易になることによる工数削減分を金額換算します。
    • 期待値: 新規機能開発にかかる時間が20%〜40%削減されることが期待されます。
  5. 組織変革とイノベーションの加速
    • 指標: 部門間の連携強化、新事業・新サービスの創出速度
    • 算出方法: 小規模なチームで特定のサービスを担当することで、意思決定が迅速化し、市場の変化に柔軟に対応できる体制を構築できます。このアジリティ向上による新サービスのローンチ回数増加や、市場投入までの期間短縮を金額換算します。
    • 期待値: 新規事業の立ち上げ期間が半減し、イノベーション創出が加速します。
間接的効果の定性評価

直接的な定量効果に加えて、マイクロサービス化は以下のような間接的な効果もあることを加えておきます。これらは直接的に金額換算が難しいものの、企業の競争力向上に不可欠な要素となっています。

  1. 柔軟性の向上: 独立したサービス群としてシステムを構築することで、特定のサービスだけを新しい技術スタックで再構築することが可能になります。これにより、将来の技術トレンドやビジネス要件の変化にも柔軟に対応できます。
  2. 組織構造の最適化: サービスごとに担当チームを割り当てることで、チームは自律的に開発を進められ、「コンウェイの法則」に基づいた組織構造の最適化を促します。
  3. 人材獲得・定着率の向上: 最新の技術スタックやモダンな開発プロセスは、優秀なエンジニアにとって魅力的な要素であり、人材獲得や定着率の向上にも繋がります。
[参考]コンウェイの法則とは

コンウェイの法則は、「システムを設計する組織のコミュニケーション構造が、そのシステムの構造にそのまま反映される」という原則です。

わかりやすい例

例えば、ある企業に「フロントエンドチーム」「バックエンドチーム」「データベースチーム」という3つの部署があったとします。この組織構造では、部署間のコミュニケーションはそれぞれが担当する技術領域に限定されがちです。

この場合、開発されるシステムも、自然とフロントエンド、バックエンド、データベースという3つのコンポーネントに分かれた構造になります。

各チームが独立して開発を進めるため、コンポーネント間の連携は多くても、チーム内でのコミュニケーションに比べると疎かになりやすい傾向がでてくるのはある意味仕方がないことなのかもしれません。

もし、このシステムを一つのチームで開発していたら、もっと密接に連携した、異なる構造のシステムが生まれていたかもしれません。

なぜこの法則が重要なのか?

コンウェイの法則は、システムのアーキテクチャを考える上で、技術的な側面だけでなく、組織のあり方(チーム構成やコミュニケーション)も同時に考慮すべきだということを教えてくれています。

因みに、逆コンウェイの法則といったワードも存在しますので、参考までにご紹介しておきます。

  • 逆コンウェイの法則: この法則を逆手に取り、作りたいシステムのアーキテクチャに合わせて、あえて組織構造を設計し直すというアプローチもあります。例えば、マイクロサービスアーキテクチャを目指すなら、サービスごとに独立した小さなチームを編成することが効果的です。
  • コミュニケーションの壁: 組織内で部署間の壁(サイロ)があると、それがシステムにも反映され、連携が取りづらく、保守や拡張が難しいシステムになってしまうリスクがあります。

この法則は、ソフトウェア開発に限らず、あらゆる「システム」に当てはまる、組織論の重要な考え方です。

ROI計算式とベンチマーク

次に、ROI計算式とベンチマークについて解説します。

マイクロサービス化のROI計算式は以下のように定義します。

ROI (%) = (年間効果金額 - 年間投資額)÷ 年間投資額 × 100

年間効果金額の内訳:

  • 開発生産性向上による人件費削減:年間投資額の20-40%
  • 運用コスト削減:年間投資額の15-30%
  • 売上機会拡大効果:年間投資額の10-50%(業界により変動)

期待ROI設定指針:

  • 保守的見積もり:初年度15-25%、3年累積40-60%
  • 標準的見積もり:初年度25-40%、3年累積60-100%
  • 積極的見積もり:初年度40-60%、3年累積100-150% …

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この記事を書いた人
株式会社APPSWINGBY
株式会社APPSWINGBY マーケティング

APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。

ご支援業種

情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

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監修
APPSWINGBY CTO川嶋秀一
株式会社APPSWINGBY  CTO 川嶋秀一

動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。

APPSWINGBY CTO川嶋秀一
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