古いシステムの改修、どこから手を付ける?

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はじめに:DX推進におけるシステム刷新の重要性
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、企業が競争力を維持し、新たな価値を創造するために不可欠な取り組みとなっています。DXの推進は、単にデジタルツールを導入するだけでなく、ビジネスモデル、組織文化、そして何よりも基盤となるシステムそのものを変革することを意味します。
しかし、多くの企業が直面している課題の一つに、長年にわたり運用されてきた「レガシーシステム」の存在があります。
これらのシステムは、企業の業務を支えてきた一方で、技術的な老朽化、複雑な構造、属人化といった問題を抱え、DXの足かせとなっているのが現状です。
本稿では、システム刷新の中でも特に、既存のコードベースを健全な状態に戻す「コード改善」に焦点を当て、どこから手を付ければ良いのかについて解説していきます。
1. コード改善の必要性とメリット
技術的負債とは?
「技術的負債」と言う言葉を聞いたことはありますでしょうか?
普段のビジネスシーンではほとんど聞かない言葉ですが、「技術的負債」とは、ソフトウェア開発において、短期的な利益のために将来的な開発や保守にコストをかけることになる選択をした結果、蓄積されていく負債のことです。
これは、まるで借金のように、後になって利子(追加のコストや手間)を払う必要が生じる企業にとっては、表面的には見えない上に、後々になって降りかかってくる大きな問題です。
具体的には、以下のような状態が技術的負債として挙げられます。
- 読みにくい、理解しにくいコード: 複雑なロジック、不適切な命名、コメント不足など。
- 重複したコード: 同じような処理が複数箇所に存在し、修正時に手間がかかる。
- テストがない、または不足しているコード: 変更が他の部分に影響を与えないか確認が難しい。
- 古い技術やフレームワークの利用: 最新のセキュリティパッチや機能が適用できない、開発者が不足している。
- ドキュメントの不足: システムの全体像や機能の詳細が不明瞭。
これらの技術的負債が蓄積されると、システムの保守が困難になり、新たな機能開発の速度が低下し、最終的にはビジネスの成長を阻害する要因となります。
コード改善がもたらす具体的なメリット
技術的負債を解消し、コード改善を進めることで、以下のような多岐にわたるメリットを享受できます。
- 保守性の向上
- コードが整理され、理解しやすくなることで、バグの特定と修正が容易になります。
- 新しい担当者でも短期間でシステムを理解し、業務に貢献できるようになります。
- 開発効率の向上
- コードの変更が容易になり、新機能の追加や既存機能の改修にかかる時間が短縮されます。
- 不必要なバグ修正に時間を費やすことが減り、本来の価値創造に集中できます。
- 品質の向上
- テストが容易になり、自動テストの導入が進むことで、デプロイ後の不具合発生率が低下します。
- 安定したシステムは、ユーザー体験の向上にも直結します。
- セキュリティの強化
- 古いライブラリやフレームワークの更新、脆弱性のあるコードの修正により、システム全体のセキュリティレベルが向上します。
- エンジニアのモチベーション向上
- 「負債」の返済は、エンジニアにとって大きな達成感をもたらし、より良いコードを書く文化が醸成されます。
- 最新技術へのキャッチアップも容易になり、技術的な成長を促します。
コード改善をしないことのリスク
コード改善を怠り、技術的負債を放置し続けることは、企業にとって深刻なリスクとなります。
- 運用コストの増大: バグ修正や緊急対応に追われ、本来の業務に手が回らなくなります。
- 開発速度の低下: 新機能開発が滞り、競合他社に遅れをとる可能性があります。
- ビジネス機会の損失: 市場の変化に迅速に対応できず、新しいビジネスチャンスを逃します。
- セキュリティリスクの増大: 脆弱性が放置され、情報漏洩やシステム停止のリスクが高まります。
- 人材流出のリスク: 古い技術や複雑なコードベースは、エンジニアのモチベーションを低下させ、離職につながる可能性があります。
これらのリスクを回避し、持続的なビジネス成長を実現するためには、コード改善への戦略的な投資が不可欠です。
2. コード改善の具体的な進め方
コード改善は一朝一夕に完了するものではなく、計画的かつ段階的に進めることが重要です。ここでは、その具体的なステップをご紹介します。
2.1. 現状把握と課題特定
コード改善の第一歩は、現状のコードベースがどのような状態にあるのかを正確に把握し、技術的負債の具体的な箇所と影響範囲を特定することです。
コードベースの分析
コードベースの分析の方法は、代表的なものがいくつか存在するのですが、今回は「メトリクス測定」についてご紹介します。
1.メトリクス測定
メトリクス測定とは、ソフトウェアのコードベースから客観的な数値を収集し、その品質や特性を定量的に評価する手法です。これにより、人間の主観に頼らず、データに基づいた改善点やリスクを特定することが可能になります。
メトリクス測定には、コードの健全性を判断する上で重要な指標があります。
- コード行数(Lines of Code: LOC)
- 概要: ソースコードの物理的な行数を数える最も基本的なメトリクスです。
- 目的: モジュールの規模や複雑度の初期的な目安となります。行数が多すぎる関数やクラスは、複数の責務を担っている可能性があり、保守やテストが困難になる傾向があります。
- 注意点: コメントや空行を含むか含まないか、言語によって定義が異なるため、比較する際は注意が必要です。また、LOCだけで品質を判断することはできません。少ない行数でも非常に複雑なコードは存在します。
- 循環的複雑度(Cyclomatic Complexity)
- 概要: コード内の独立したパスの数を測定するメトリクスです。条件分岐(
if
,else
,switch
)、ループ(for
,while
)、例外処理(try-catch
)などが増えるほど、複雑度が上がります。 - 目的: 特定の関数やメソッドがどれだけ複雑であるかを示します。循環的複雑度が高いコードは、理解が難しく、テストケースの作成が困難になり、バグを混入させるリスクが高まります。
- 一般的な目安: 通常、10を超える場合は高すぎるとされ、20を超えると非常に危険な状態と見なされることが多いです。このような箇所は、リファクタリングによる分割や簡素化の優先度が高くなります。
- 概要: コード内の独立したパスの数を測定するメトリクスです。条件分岐(
- 凝集度(Cohesion)
- 概要: モジュール(クラスや関数)内の要素が、どれだけ密接に関連しているかを示すメトリクスです。
- 目的: 凝集度が高いモジュールは、そのモジュールが単一の明確な責務を持っていることを意味します。例えば、あるクラスのメソッドがすべて同じデータ構造を操作している場合、凝集度は高いと言えます。凝集度が低いモジュールは、複数の unrelated な責務を担っている可能性があり、変更が他の機能に予期せぬ影響を与えるリスクがあります。
- 種類: 機能的凝集(最も望ましい)、逐次的凝集、通信的凝集、時間的凝集、手続き的凝集、論理的凝集、偶発的凝集(最も望ましくない)などがあります。
- 結合度(Coupling)
- 概要: モジュール間の依存関係の強さを示すメトリクスです。
- 目的: 結合度が低いモジュールは、他のモジュールへの依存が少なく、独立性が高いことを意味します。これにより、あるモジュールを変更しても、他のモジュールへの影響が少なくなり、システムの保守性や再利用性が向上します。結合度が高いモジュールは、変更がシステム全体に波及しやすく、テストも困難になります。
- 種類: データ結合(最も望ましい)、スタンプ結合、制御結合、外部結合、共通結合、内容結合(最も望ましくない)などがあります。
メトリクス測定の活用方法
これらのメトリクスを測定することで、以下のような具体的なアクションにつなげることができます。
- 問題箇所の特定: 循環的複雑度が高い関数や、凝集度が低く結合度が高いクラスなど、特に改善が必要な「ホットスポット」を特定します。
- リファクタリングの優先順位付け: メトリクスが示す数値に基づいて、どの部分からリファクタリングに着手すべきかを客観的に判断します。
- 進捗の可視化: コード改善の前後でメトリクスを比較することで、改善活動の効果を定量的に評価し、進捗をチームや経営層に報告できます。
- 品質ゲートの設定: CI/CDパイプラインにメトリクス測定を組み込み、特定のしきい値を超えたコードはデプロイをブロックするなど、品質ゲートとして活用することも可能です。
メトリクス測定は、コードの「健康状態」を診断するための強力なツールであり、継続的なコード改善活動の基盤となります。
2.手動レビューとヒアリング
実際にコードを読んでいる開発者や、システムを運用している担当者からのヒアリングは、ツールの分析だけでは見えてこない「生きた情報」を得る上で非常に重要です。特に、属人化している箇所や、頻繁に問題が発生する箇所に焦点を当てます。
今回は、コード改善の必要性とメリットからコード改善の具体的な進め方としてメトリクス測定について解説しました。次回は、ビジネス要件と技術的負債のマッピングからリファクタリングの適用までを詳しく解説してまいります。
解説記事「古いシステムの改修、どこから手を付ける?」の続きは
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この記事を書いた人

株式会社APPSWINGBY マーケティング
APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。
ご支援業種
情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

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監修

株式会社APPSWINGBY CTO 川嶋秀一
動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。

株式会社APPSWINGBY CTO 川嶋秀一
動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。