最先端データエンジニアリング活用術 ~データエンジニアリングの基礎から主要技術とツール
ビジネスの競争力を高めるために「データ」を活用することが当たり前になった今、データを如何にして取り扱い活用するのかという点において様々な試行錯誤・競争が行われています。
日々蓄積され続ける膨大なデータを効率的かつ戦略的に扱うことは、製品やサービスの差別化はもちろん、組織全体の意思決定をより迅速・的確にする上で不可欠な時代となりました。そんな中、データインフラを整備し、システム間をつなぐ役割を担うと「データエンジニアリング」が注目を集めています。
本記事では、データエンジニアリングがなぜここまで重要とされているのか、またこれからのITトレンドにおいてどのような位置付けを持つのかについて解説していきます。
- 1. 1.データエンジニアリングが注目される背景
- 1.1. ビッグデータとAI時代におけるデータエンジニアの役割
- 2. 2025年のITトレンドの中でのデータエンジニアリングの重要性
- 3. 2.データエンジニアリングの基礎
- 3.1. データエンジニアリングとは
- 3.2. データアナリティクスや機械学習との違い・関係性
- 3.3. データエンジニアが担う主な業務領域
- 4. 3.データエンジニアリングを支える主要技術・ツール
- 4.1. データパイプライン・オーケストレーションツール
- 4.2. 分散処理フレームワーク
- 4.3. データストレージ・データベース技術
- 4.4. クラウドプラットフォームの活用
- 4.5. インフラ構成管理・IaC (Infrastructure as Code)
1.データエンジニアリングが注目される背景
データエンジニアリングが急速に注目される背景には、以下のような変化が挙げられます。
- データ量の爆発的増加
SNSやIoTデバイスの普及により、企業が取り扱うデータ量は指数関数的に増大しています。そのため、従来のサーバーやデータベースだけでは対応しきれないケースが増え、ビッグデータ処理やクラウドの活用が求められるようになりました。 - リアルタイム分析ニーズの高まり
かつての「日次集計」や「週次レポート」では対応が難しいほどに、企業環境は変化のスピードを増しています。リアルタイムで顧客の行動分析を行い、すぐに施策へ反映する――そんな俊敏性が競合との差別化を大きく左右する時代になりました。 - DX(デジタルトランスフォーメーション)の加速
日本国内でもDX推進を企業戦略の中心に据える動きが活発化しています。DX実現にはデータを軸とした業務プロセスの変革が必須であり、その土台を支えるのがデータエンジニアリングなのです。
ビッグデータとAI時代におけるデータエンジニアの役割
AIや機械学習、ビッグデータ解析などの高度なデータ活用には、まず「正しく整形され、クリーンなデータ」をリアルタイムに供給できる仕組みが欠かせません。
その際に必要となるのが、ETL(Extract, Transform, Load)やELT(Extract, Load, Transform)などのデータパイプライン、データウェアハウス/データレイク、データメッシュといったアーキテクチャの設計・構築・運用を担うデータエンジニアです。
- 複雑なデータ基盤の整備
AIモデルや分析ツールが効率的に動作するためには、膨大かつ様々な形式のデータをシームレスにつなぎ込み、一貫した整合性を保たなければなりません。データエンジニアは、クラウドやオンプレミス、さらにはエッジデバイスといった複数の環境をまたいだデータ基盤を、信頼性・拡張性を考慮して構築します。 - 継続的なパフォーマンス最適化とメンテナンス
データ量が増えれば処理時間やコストも比例して増加します。データエンジニアは、ビジネス要件に合った最適な技術選定やクラウドリソース管理を行い、必要に応じて自動スケーリングやキャパシティプランニングの調整を行います。
このように、データエンジニアはAI・ビッグデータ時代の“縁の下の力持ち”として、企業のデータドリブン戦略を支える重要なポジションを担っています。
2025年のITトレンドの中でのデータエンジニアリングの重要性
2025年に向け、DXがさらに加速することは言うまでもありません。その流れの中でデータエンジニアリングは、組織が持続的な成長を遂げるためのエンジンとしてますます重要になります。
- データメッシュの普及
組織単位で分散していたデータサイロを解消し、各ドメインが責任をもってデータを提供・利用できる「データメッシュ」の概念が注目されています。従来の集中型データレイクとは異なるアプローチにより、柔軟性や拡張性が飛躍的に向上すると期待されていますが、その分、適切なアーキテクチャ設計や運用が求められます。 - リアルタイム分析へのシフト
5GやIoTのさらなる発展により、ほぼリアルタイムにデータを取得・分析するニーズが幅広い業界で高まっています。たとえばECサイトのレコメンドエンジンや、金融分野の不正検知システムなどがその代表例です。リアルタイム分析をスムーズに実現するためには、高速なストリーミング処理基盤を構築・運用できるスキルが必須となります。
2.データエンジニアリングの基礎
データを戦略的に活用するには、単にデータを集めるだけでなく、信頼性や拡張性に優れたインフラを整備する必要があります。そこで重要となるのが、膨大なデータを効率よく収集・加工・保管・運用する仕組みを設計し、ビジネス価値を最大化する「データエンジニアリング」です。本章では、データエンジニアリングの定義から、関連する他領域(データアナリティクスや機械学習)との関係性、そして具体的な業務領域について順を追って解説します。
データエンジニアリングとは
データエンジニアリングは、企業内外で発生するあらゆるデータを扱う基盤を設計・構築・運用するプロセスを指します。
単なるデータの保管庫を作るのではなく、ビジネスが必要とする形でデータを迅速かつ継続的に供給できる環境を整備するのが最大の目的です。たとえば、膨大なログデータやセンサーデータをリアルタイムでストリーミングしながら保存・加工し、その結果を機械学習モデルに渡すといった処理を実現するためには、スケーラブルかつ耐障害性に優れたアーキテクチャが求められます。
データエンジニアリングはまさに、こうしたデータ基盤の土台となる領域です。
データアナリティクスや機械学習との違い・関係性
「データエンジニアリング」とよく混同される領域として、「データアナリティクス(データ分析)」や「機械学習(ML)」があります。これらはデータを活用するうえで同じ流れに位置するため、密接に関わりながらも、果たす役割に明確な違いがあります。
- データアナリティクス
主にビジネス視点からデータを分析・可視化し、意思決定や戦略立案に役立てる活動。BIツールや統計手法、可視化ツールなどを活用することが多く、データから得られた示唆を経営層や事業部に提供します。 - 機械学習
数学モデルやアルゴリズムを用いて大量のデータを学習し、予測や分類、推定などを自動化する技術領域です。AI・ディープラーニングなども機械学習の一部として扱われます。 - データエンジニアリング
上記のデータアナリティクスや機械学習で成果を出すために必要な「裏方の仕組み」を作るのが役割。データの収集・加工・保存を効率化し、アナリストやデータサイエンティストがいつでも高品質なデータを利用できるようにします。
つまり、データアナリティクスや機械学習がビジネス価値を生み出す「表舞台」の役割を担うとすれば、データエンジニアリングはその「舞台装置」を整える存在といえるでしょう。
データエンジニアが担う主な業務領域
データエンジニアは、データ活用のライフサイクルを横断的に支えながら、さまざまな業務を担います。以下に代表的な領域を挙げます。
- データ収集
企業内外のシステムやIoTデバイス、SNSなど、多種多様なソースからデータを取得する処理を設計します。APIやストリーミング処理を用いるケースも増えています。 - データパイプライン設計
収集したデータを必要な形に変換し、格納先に送るための“パイプライン”を構築します。近年はETL(Extract, Transform, Load)からELT(Extract, Load, Transform)への移行や、リアルタイム処理に対応したストリーミングパイプラインも注目されています。 - データウェアハウス/データレイク構築
集めたデータを一元管理し、分析や学習に適した形で保管するためのデータウェアハウスやデータレイクを設計・構築します。最近はデータレイクとウェアハウスのメリットを組み合わせた「レイクハウス」もトレンドです。 - 運用と監視
データパイプラインや基盤を安定稼働させるために、モニタリングやログ収集、アラート設定などを行います。また、スケーラビリティやコスト最適化を図るために、クラウドリソースの動的な調整が求められることも少なくありません。
これらの業務領域はすべて一連の流れで関連しており、企業のデータドリブン戦略を支える基盤を整備するうえで重要な役割を担います。データエンジニアがいかにして高品質かつ効率的なデータ環境を提供するかが、最終的な分析の質やAIモデルの精度、ひいてはビジネスの成果にも大きく影響してくることになります。
3.データエンジニアリングを支える主要技術・ツール
データエンジニアリングの成功には、データの収集・変換・保管・分析といったプロセスを効率化するための技術・ツールが欠かせません。本章では、代表的なツール群やプラットフォームを紹介し、それぞれがどのようにデータエンジニアの業務を支えているのかを解説します。
データパイプライン・オーケストレーションツール
データパイプラインを構築・運用するうえで、複数のジョブやタスクを自動化し、依存関係を整理するための“オーケストレーション”が重要です。以下は代表的なツールです。
- Airflow
Apache Airflowは、Pythonをベースにパイプラインを定義・管理できるツールです。タスクの依存関係や実行スケジュールを直感的に記述でき、Web UIから進捗をモニタリングできます。大規模なワークフローを扱う際に高い拡張性を発揮します。 - Luigi
Spotifyが開発したパイプライン管理ツールで、シンプルなタスク定義によりデータ処理フローの組み立てを容易にします。Airflowと同様にPythonで記述できるため、Python開発者が多いチームでは学習コストを抑えつつ導入しやすい点が魅力です。 - Prefect
新興ツールながら、Airflowに比べてより柔軟な設定が可能で、タスクの状態管理やエラー対応、タスク再実行などの機能が充実しています。クラウド版のPrefect Cloudやセルフホスト版のPrefect Orionなど、ニーズに合わせた選択肢を提供しています。
分散処理フレームワーク
ビッグデータを効率的に処理するには、分散処理フレームワークの活用が欠かせません。大規模データを複数のノードに分散して並列処理し、圧倒的なスピードとスケーラビリティを実現します。
- Apache Spark
メモリ上での高速処理を得意とし、バッチ処理からストリーミング処理、機械学習やグラフ処理まで幅広いユースケースに対応できるオールラウンドなフレームワークです。大手クラウドベンダーがSparkベースのサービスを提供しており、導入事例も豊富です。 - Apache Flink
リアルタイム処理に強く、高速かつ柔軟なストリーミング処理を可能にするフレームワークです。イベントタイムを考慮した処理モデルや状態管理が充実しており、IoTや金融取引などのリアルタイム分析シナリオで活躍します。
データストレージ・データベース技術
データを蓄積し、必要な形で管理・呼び出すためには、使用目的やデータ形式に応じたストレージ・データベースを選択する必要があります。
- リレーショナルデータベース (RDB)
伝統的な行ベースのデータベース。トランザクション処理を得意とし、SQLによるデータ操作に適しています。堅牢なACID特性が求められるシステムで主流です。 - NoSQL
キー・バリュー型やカラム指向、ドキュメント指向など多様な形式が存在し、大規模データや高スループット処理に適しています。柔軟なスキーマ設計や水平スケーリングのしやすさから、SNSやログデータなど変化の激しいユースケースで活用されます。 - Data Lakehouse
従来のデータレイク(多様な形式のデータを生データとして格納する領域)と、データウェアハウス(整理・統合されたデータを分析に特化した形で保管する領域)の特長を組み合わせた新しい概念です。データのサイロ化を防ぎつつ、一貫した分析基盤を提供できるため、近年注目度が高まっています。
クラウドプラットフォームの活用
オンプレミスと比べて柔軟なリソース管理や豊富なサービス連携が可能なクラウドプラットフォームは、データエンジニアリングにおいても強力な選択肢です。代表的なクラウドベンダーと、それぞれのデータ関連サービスの特徴を簡単に見てみましょう。
- AWS (Amazon Web Services)
- S3 (Simple Storage Service) や Redshift、EMR (Elastic MapReduce)、Glue など、豊富なデータサービスを提供
- サーバーレスアーキテクチャを利用したコスト効率や拡張性を実現しやすい
- Azure (Microsoft Azure)
- Azure Synapse AnalyticsやAzure Data Lake Storage、Azure Databricksなど、分析や機械学習に特化した環境を提供
- Microsoft製品との連携が強く、Office365やPower BIなどと組み合わせるケースも多い
- GCP (Google Cloud Platform)
- BigQueryやDataflow、Dataprocなど、高速クエリ・大規模処理に強いサービスを多数提供
- Googleの検索エンジン開発で培った大規模分散処理技術がベースとなっており、スケーラビリティが高い
インフラ構成管理・IaC (Infrastructure as Code)
データパイプラインや分析基盤を大規模かつ安定的に運用するには、手動でインフラを構築するのではなく、コードによって自動化・管理する「IaC(Infrastructure as Code)」の手法が重要です。
- Terraform
クラウドベンダーを問わず、インフラ構成をコード化して管理できるオープンソースのツール。AWSやAzure、GCPといったマルチクラウド環境にも対応しており、一貫性と再現性の高いインフラ構築が行えます。 - Ansible
構成管理ツールの代表格として知られ、複数のサーバーに対する設定やパッケージのデプロイを自動化するのに適しています。エージェントレスで動作するため、導入コストを抑えやすい点が特徴です。
これらの技術・ツールを適切に活用することで、データエンジニアは複雑なデータパイプラインの管理や、大量データを扱う基盤の運用をスムーズに行うことができます。最適なツール選択と組み合わせが、データドリブン戦略の成否を大きく左右するといえるでしょう。
次回や応用編としてデータエンジニアリングの高度化や最先端のデータエンジニアリングの動向についてご紹介したいと思います。
解説記事「B2Bセールス/マーケティング分野で注目を集めるバイヤーイネーブルメントとは」の続きは
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この記事を書いた人
株式会社APPSWINGBY マーケティング
APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。
ご支援業種
情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数
監修
株式会社APPSWINGBY
CTO 川嶋秀一
動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。