生成AIは機械学習から始まる-その7:深層学習を支える技術革新

今回は、「生成AIは機械学習から始まる-その7:深層学習を支える技術革新」と題し、「生成AIは機械学習から始まる-その6:なぜ「深層」なのか」でご紹介した”深層学習”についての深堀記事です。
前回までの記事をまだご覧になっていない方は、以下のリンクより是非ご覧ください。
第一回:生成AIは機械学習から始まる:基礎から理解する技術の系譜と実装への道
第二回:生成AIは機械学習から始まる-その2:機械学習のアプローチ
第三回:生成AIは機械学習から始まる-その3:教師なし学習(Unsupervised Learning)
第四回:生成AIは機械学習から始まる-その4:強化学習Reinforcement Learning)
第五回:生成AIは機械学習から始まる-その5:深層学習(Deep Learning)の登場
第六回:生成AIは機械学習から始まる-その6:なぜ「深層」なのか
では、さっそくはじめていきましょう!
深層学習を支える技術革新
深層学習の成功は、いくつかの重要な技術革新によって支えられています。今回は深層学習の基盤となる4つの技術をご紹介します。
1. 活性化関数の進化
まずひとつめは、活性化関数です。
活性化関数は、ニューラルネットワークの各層において、入力信号の総和に非線形な変換を施し、次のニューロンへの出力信号を決定する関数のことであり、モデルが複雑な非線形関係やパターンを学習できるようにし、ディープラーニングモデルの表現能力と識別能力を飛躍的に高めるための関数です。
そんな活性化関数ですが、ReLU(Rectified Linear Unit)が登場したことにより、大きく変化していきます。
ReLU(Rectified Linear Unit)の登場
深層学習におけるReLU(Rectified Linear Unit)の登場は、それ以前に主流だったシグモイド関数やtanh関数が抱えていた主要な問題点を解決し、深層ニューラルネットワークの実用化と発展に決定的な影響を与えました。
具体的には、勾配消失問題の軽減と計算効率の高さによる学習の高速化です。
ReLU(Rectified Linear Unit)
ReLU(x) = max(0, x)ReLUの利点
- 勾配消失問題の軽減:正の領域では勾配が1で一定
- 計算効率:単純な演算で高速
- スパース性:負の入力でニューロンが完全にオフになり、ネットワークがスパースに
ReLUの登場は、深層学習の実用化における最も重要なブレイクスルーの1つです。
ReLUは非常に興味深い技術ですので、別の記事でReLUを深堀りします。
2. 正則化技術
次にご紹介するのは、正則化技術です。
正則化技術とは、機械学習モデルが訓練データに過剰に適合しすぎる現象(過学習、オーバーフィッティング)を抑制し、未知のデータに対する汎化性能(Generalization Ability)を高めるための手法で、モデルの複雑性を制御し、訓練データにおける損失関数にペナルティ項を加えることで、重みパラメータが不必要に大きな値を取ることを抑制するための技術の総称です。
特に、深層学習におけるDropout(ドロップアウト)は、訓練中にニューラルネットワークの過学習を防ぐための非常に強力な正則化技術の一つとなっており、これにより
- 特定のニューロンへの過度な依存を防ぐ
- ネットワークにロバスト性を持たせる
- 実質的にアンサンブル学習の効果を得る
といった効果を得ることができます。
また、ネットワークの訓練中、各層に入ってくるデータ分布を一定に保つことを目的に、バッチ正規化(Batch Normalization: BN)によって各層の入力を正規化することで、
- 学習の安定化と高速化
- より大きな学習率の使用が可能
- 勾配の流れを改善
といった効果も得ることができます。
3. 最適化アルゴリズムの進化
3つ目にご紹介するのは「最適化アルゴリズム」です。
最適化アルゴリズムとは、最適化アルゴリズムとは、与えられた問題に対して、最適な解や最も効率的な方法を見つけ出すための計算手順(アルゴリズム)のことです。
Adam(Adaptive Moment Estimation)
Adamは、現在最も広く使用されている最適化アルゴリズムの一つで、従来の確率的勾配降下法(SGD)の進化版であり、勾配の情報をより賢く利用するためにモーメンタムと適応的学習率のアイデアを組み合わせています。
まとめると以下の通りです。
- 各パラメータに適応的な学習率を設定
- モメンタムの概念を導入し、学習の振動を抑制
- 現在、最も広く使われる最適化手法の1つ
学習率スケジューリング
学習率スケジューリングについても忘れてはいけません。
学習率とは、最適化アルゴリズムにおいて、どれだけ大きくパラメータを更新するかを決定する最も重要なハイパーパラメータです。学習率スケジューリングとは、訓練の進行に伴って、この学習率を動的に変化させる手法の総称です。
こちらもまとめると以下の通りです。
- 訓練の進行に応じて学習率を調整
- ウォームアップ、コサイン減衰などの戦略
余談ですが、学習率スケジューリングを学ぶと、「なぜスケジューリングが必要なの?」という疑問が湧いてくる人もいると思うのですが、固定された学習率では、以下の問題が生じる場合があります。
- 訓練初期: 大きな学習率が必要だが、大きすぎると不安定になる。
- 訓練終盤: 最小値付近に近づくと、固定の学習率では振動が続き、真の最小値に収束できない(細かすぎる調整ができない)。
学習率スケジューリングは、この問題を解決するために、一般的に訓練が進むにつれて学習率を小さくしていくのですが、“訓練が進むにつれて学習率を計画的(スケジュール通り)に、そして段階的に変化させる”というその動作に由来し、”スケジューリング”とつけられたそうです。
4. アーキテクチャの革新
最後は、アーキテクチャです。
2015年以前の世界では、ネットワークを深くするほど、勾配消失問題や、より深刻な劣化問題(Degradation Problem)により、性能が低下するという問題が起きていました。
劣化問題とは、ネットワークを深くすることで、訓練誤差(Training Error)でさえも上昇してしまう現象のことです。
これは過学習ではなく、最適化がうまくできないことによるものです。理論上、深層モデルは浅いモデルと同等以上の性能を出せるはずなのに、実際には勾配の伝達がうまくいかず、学習が停滞していたのです。
これらの問題を解決したのが、残差接続とResNet(Residual Network)です。
ResNetは、残差接続(Residual Connection)、またはスキップ接続(Skip Connection)という革新的な概念を導入しました。この接続は、入力を層の出力に直接バイパス(飛び越し接続)させる手法です。
残差接続(Residual Connection)とは
残差接続は、入力$x$を層の出力にバイパス(飛び越し接続)させる手法です。これにより、ネットワークが学習すべき関数を、入力$x$からの残差(Residual)として捉え直すことができます。
残差写像としての捉え直し
従来のネットワーク(層)が、入力$x$に対して何らかの写像$H(x)$を学習しようとしていたのに対し、残差接続では、ネットワークの層が学習すべき関数を、入力$x$からの残差(Residual)、つまり「変化量」として捉え直します。
- 従来のネットワーク層:$$\text{出力} = H(x)$$
- 残差接続を持つ層(ResNetの基本構造):$$\text{出力} = F(x) + x$$
ここで$F(x)$は残差写像を表しており、$F(x) = H(x) – x$です。
この仕組みにより、ネットワークは、恒等写像($H(x) = x$)を学習したい場合、残差$F(x)$をゼロに近づけるだけで済むため、最適化が劇的に容易かつ安定するようになりました。これにより、数百層に及ぶ非常に深いネットワークの訓練が初めて可能となり、深層学習の性能を大きく飛躍させたのです。
この変更により、
- 超深層ネットワークの訓練が可能に:152層、さらには1000層以上
- 勾配がスキップ接続を通じて直接流れる
- 層が「恒等写像」を学習しやすくなる
ResNetの登場により、「深ければ深いほど良い」という時代が到来しました。
Transformerアーキテクチャ
Transformerアーキテクチャについても少しだけご紹介しておきます。
「Attention Is All You Need」(2017年)論文で提案されたTransformerアーキテクチャは、それ以前の主流だったRNN(リカレントニューラルネットワーク)やCNN(畳み込みニューラルネットワーク)を使わず、自己注意機構(Self-Attention Mechanism)のみに基づいて構築された画期的なモデルです。
Transformerアーキテクチャについて解説しはじめると、長くなってしまいますので、要点を3つご紹介しておきます。
Attentionの核心的アイデア
- 入力の異なる部分に異なる重要度を割り当てる
- 関連する情報に「注意を向ける」
- 長距離依存関係を効率的に捉える
この革新が、後の大規模言語モデル(GPT、BERTなど)の基礎となります。
深層学習の課題と限界
深層学習は強力ですが、完璧ではありません。重要な課題もあります:
1. データの必要性 深層学習モデルは、効果的に訓練するために大量のデータを必要とします。数千から数百万のサンプルが必要なことも珍しくありません。
2. 計算資源 大規模モデルの訓練には、高性能なGPUや専用ハードウェア(TPU)、そして膨大な電力が必要です。GPT-3の訓練コストは推定で数百万ドルとも言われています。
3. 解釈可能性(Explainability) 深層学習モデルは「ブラックボックス」と呼ばれることがあります。なぜその予測をしたのか説明が難しい場合があり、医療診断や金融などの分野では問題となります。
4. 敵対的攻撃への脆弱性 人間には気づかないような微小なノイズを加えるだけで、モデルが誤った予測をすることがあります。
5. バイアスの増幅 訓練データに含まれるバイアスを学習し、時には増幅してしまいます。
これらの課題に対処するため、説明可能AI(XAI)、少数サンプル学習(Few-Shot Learning)、連合学習(Federated Learning)などの研究が活発に進められています。
解説記事「生成AIは機械学習から始まる-その7:深層学習を支える技術革新」の続きは
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この記事を書いた人

株式会社APPSWINGBY マーケティング
APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。
ご支援業種
情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

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監修

株式会社APPSWINGBY CTO 川嶋秀一
動画系スタートアップや東証プライム上場企業のR&D部門を経て、2019年5月より株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTO。
Webシステム開発からアプリ開発、AI導入、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトまで幅広く携わる。
C, C++, C#, JavaScript, TypeScript, Go, Python, PHP, Java などに精通し、Vue.js, React, Angular, Flutterを活用した開発経験を持つ。
特にGoのシンプルさと高パフォーマンスを好み、マイクロサービス開発やリファクタリングに強みを持つ。
「レガシーと最新技術の橋渡し」をテーマに、エンジニアリングを通じて事業の成長を支えることに情熱を注いでいる。

株式会社APPSWINGBY CTO 川嶋秀一
動画系スタートアップや東証プライム上場企業のR&D部門を経て、2019年5月より株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTO。
Webシステム開発からアプリ開発、AI導入、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトまで幅広く携わる。
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