第2回 クラウドネイティブ化で高まる事業価値:リファクタリングがもたらす長期的なメリット

クラウドネイティブ化で高まる事業価値:リファクタリングがもたらす長期的なメリット

前回は、「クラウドネイティブ化で高まる事業価値:リファクタリングがもたらす長期的なメリット」と題して、”クラウドネイティブ化の重要性”から”クラウドネイティブ化とリファクタリングの基礎”についてご紹介しました。

今回は、システムをクラウドネイティブ化することによってビジネス成果を最大化をテーマに基本を中心にご紹介していきます。もし、前回の記事をお読みになって頂いていない場合は、以下のリンクよりご覧ください。

記事:クラウドネイティブ化で高まる事業価値:リファクタリングがもたらす長期的なメリット

4. クラウドネイティブ化によるビジネス成果の最大化

アジャイル・DevOpsとの親和性

アジャイルとDevOpsとの親和性と聞いてピンとくる人は少ないと思いますが、アジャイルとDevOpsの共通点に的を絞り、このふたつがどのようにモダンな開発環境・開発体制をつくりあげていくのかを簡単にご紹介します。

システム開発において、近年、主流になってきているのがアジャイル開発です。アジャイル開発では、小規模な機能を短いスプリントで繰り返しリリースし、継続的に改善を行うことが重要とされています。一方で、DevOpsでは開発と運用の連携を深めることで、リリースサイクルを短縮し品質を高めるアプローチです。

クラウドネイティブ化した(クラウドネイティブ化する)システムの開発体制・開発環境を少しだけ見直すだけで、以下のようなメリットを得ることができるので、そのメリットをリストしておきます。

  1. 自動化の推進:  コンテナ技術やInfrastructure as Code(IaC)の導入により、環境構築やテスト、リリース作業を自動化しやすくなります。これにより、アジャイル・DevOpsの基本理念である迅速なリリースサイクルが実現しやすくなります。
  2. 独立性の高いアーキテクチャ:  マイクロサービス化されたシステムは、機能単位での開発やテスト、デプロイが可能になるため、組織横断的な協力体制をとりやすくなります。
  3. 開発チームのモチベーション向上:  自動化された仕組みや明確に定義された開発プロセスが整うことで、開発者はより付加価値の高い機能開発に集中できるようになります。

こうした取り組みは、外部環境の変化が激しい現代において競合他社に差をつける上でも重要です。アジャイルやDevOpsの定着が進めば進むほど、クラウドネイティブ化の恩恵を最大限に活かすことができます。

たとえば、Amazonはクラウドネイティブ環境でアジャイル・DevOpsを積極的に取り入れることで、高頻度リリースを可能にし、顧客ニーズに即応するシステム運用を実践していると言われています。

クラウドコスト最適化のためのFinOps戦略

クラウド環境を利用する上で、コスト最適化は避けては通れない課題です。

特に、大規模な組織ではクラウド上のリソースが増えるほど管理の複雑さが増し、思わぬコストが発生するリスクがあります。そこで注目されるのがFinOps(Financial Operations)の考え方です。

FinOpsは、クラウドコストを最適化するための運用手法であり、財務部門とIT部門が連携して、予算策定やコスト管理を継続的に改善していくフレームワークです。具体的には以下のようなステップを踏んで導入を進めます。

  1. 可視化: クラウド利用状況やコストをダッシュボードなどでリアルタイムに把握する。
  2. 分析と最適化: 不要なリソースの削減や、リザーブドインスタンスの活用によるコスト削減策を検討する。
  3. 自動化: スクリプトやツールを活用して、無駄なリソースを自動的にスケールダウンする仕組みを構築する。
  4. 継続的改善: 定期的にレビューを行い、新技術の導入や契約形態の変更を検討する。

たとえば、Microsoft Azure上でFinOpsを適用した企業事例では、月次のコストレビューと自動スケーリング設定を徹底することで、約30%のコスト削減に成功したケースが報告されています。

セキュリティとコンプライアンスの強化

クラウドネイティブな環境へ移行する際、セキュリティとコンプライアンスの確保が重要な課題となります。オンプレミス環境とは異なり、クラウドではサービスが外部へ公開される機会が増えるため、組織外からのアクセスリスクが上昇しがちです。しかし同時に、クラウドサービスプロバイダが提供する高度なセキュリティ機能やツールを利用すれば、オンプレミスよりも強固なセキュリティ体制を構築することも可能です。

以下のリストは、セキュリティとコンプライアンスの強化の一例です。

  • 脅威検知とインシデントレスポンス: クラウド上のログ収集やAIを活用した異常検知により、不審なアクセスや攻撃を早期に発見し対処することができます。
  • ゼロトラストモデルの導入: マイクロサービスごとに厳格な認証・認可を設定し、内部ネットワークであっても常に信頼しない姿勢を保つことで、攻撃範囲を最小化します。
  • コンプライアンス対応: ISO27001やSOC2などの国際規格や業種別の法規制に対応するために、クラウドベンダーのセキュリティ認証やコンプライアンス機能を活用し、コンプライアンス遵守を証明しやすくなります。

また、金融業界や医療業界といった厳しい規制下にある組織においても、クラウドベンダーが提供する専用ネットワークセグメントや暗号化機能を組み合わせることで高いセキュリティ水準を確保できます。

クラウドネイティブ化によるビジネス成果の最大化は、アジャイル・DevOpsとのシナジー効果だけでなく、FinOpsを用いたコスト削減や高度なセキュリティ対策を同時に実践できる点にも大きな強みがあります。これらの取り組みを総合的に行うことで、競争力のあるサービスをスピーディーかつ安全に展開し、企業価値を向上させることができます。

5. クラウドネイティブ化を支えるフレームワークとツール

クラウドネイティブ化を円滑に進め、ビジネス価値を最大限に引き出すためには、適切なフレームワークやツールの活用が不可欠です。ここでは、クラウドネイティブアーキテクチャの設計基本と、代表的なツール群について解説します。これらをうまく組み合わせることで、開発・運用の効率化や品質向上を図り、競合優位性を確立しやすくなります。

クラウドネイティブアーキテクチャ設計の基本

クラウドネイティブアーキテクチャを設計する際には、マイクロサービスやサーバーレスなどの分散型アーキテクチャを前提とし、スケーラビリティや可用性を最優先に考慮します。以下のポイントを踏まえると設計の指針がつかみやすくなります。

  1. 疎結合なサービス設計
    マイクロサービス間をAPIなどで連携し、それぞれのサービスが独立して動作・スケールできるように設計します。これにより、一部のサービスが障害を起こしても全体に影響を及ぼしにくくなります。
  2. イベントドリブンなメッセージング
    AWS LambdaやAzure Functionsなどのイベントドリブンなアーキテクチャを採用し、必要に応じてサービスが動作する形にすると、コストとリソースを最適化できます。また、メッセージングやイベントストリームを活用してサービス間の連携を非同期で行うことで、システム全体の耐障害性が高まります。
  3. 自動化とオブザーバビリティObservability)の確保
    クラウドネイティブ環境では、リリースサイクルが短くなることが多いため、監視(Monitoring)、ロギング(Logging)、トレーシング(Tracing)などのオブザーバビリティ(Observability)を強化し、自動化されたテストやデプロイパイプラインを構築しておくことが重要です。

これらの設計思想を踏まえることで、システム全体を小さなコンポーネントに分割し、柔軟性や可用性を高めながら開発・運用が行いやすい基盤を作れます。

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コンテナ化(Kubernetes, Docker)とマイクロサービスの活用

クラウドネイティブ化の要となる技術の一つが「コンテナ化」です。コンテナはアプリケーションを軽量な環境ごとパッケージ化し、移植性を高める仕組みです。代表的なコンテナ技術として知られているのは”Docker”です。Kubernetes(K8s)もAWSなどで活用される機会が増えることで広く知られるようになってきました。

  • Docker
    コンテナの作成や配布をシンプルに行えるツールとして広く使われています。コンテナイメージをDocker Hubなどに登録・共有することで、チーム間でも容易に開発環境を統一できます。
  • Kubernetes(K8s)
    大規模なコンテナ環境を効率的に管理・オーケストレーションするためのプラットフォームです。自動スケーリングや自己修復などの機能を備え、マイクロサービスの運用をスムーズに行えます。GoogleやNetflixなどの先進企業が大規模コンテナ運用にKubernetesを導入している事例は多く、成功事例が豊富にあります。

コンテナ化とマイクロサービスを組み合わせることで、開発チームはサービス単位で独立したライフサイクルを運用できるようになります。これにより、新機能の開発・リリースを高速化し、問題が起きた際の影響範囲も最小限に抑えることが可能です。

IaC(Infrastructure as Code)と自動化の実践例

クラウドネイティブの開発・運用体制を確立するうえで、Infrastructure as Code(IaC)の導入は不可欠です。IaCとは、従来は手作業で行っていたインフラ環境の構築や設定を、コードとして管理し、自動的に実行・再現できるようにする手法を指します。

  • Terraform
    HashiCorp社が開発したオープンソースツールで、AWS、Azure、GCPなどマルチクラウド環境に対応しており、一貫した方法でリソースを管理できるメリットがあります。たとえば、Terraformを導入した企業では、環境の再現性や可視化が向上し、新たな環境構築にかかる工数を大幅に削減できたという報告があります(参考URL: https://www.terraform.io/ 外部リンク )。
  • CloudFormation(AWS)やARMテンプレート(Azure)
    特定のクラウドサービスに特化したIaCツールで、それぞれのプラットフォームに最適化された機能を提供します。既存リソースとの連携やサービス固有機能を活用しやすい反面、他クラウドへの移行には別途ツールが必要になる場合があります。

IaCのメリットとしては、環境構築や設定ミスの低減、バージョン管理やレビューによる品質向上などが挙げられます。自動化されたパイプラインと組み合わせれば、新しい機能をデプロイするたびに同じ設定を適用できるため、運用負荷を劇的に下げることができます。

本記事は、単なるクラウドネイティブ化の解説に留まらず、クラウドネイティブ化を検討する上で直面する現実的な課題解決に必要な情報を提供しています。クラウドネイティブ化は、様々な事業において安定した稼働基盤となり、今後の事業の成長過程において競争力の源泉となるでしょう。ぜひ、本記事の内容を活用いただき、クラウドネイティブ化ご検討の一助としていただければと存じます。

クラウドネイティブ化へ移行や現システムのリアーキテクチャ、リファクタリングによるコード改修、システム統合はAPPSWINGBYが最も得意とする専門分野です。是非、ご検討の際には弊社問い合わせフォームよりお気軽にお問い合わせください。

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この記事を書いた人
株式会社APPSWINGBY
株式会社APPSWINGBY マーケティング

APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。

ご支援業種

情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

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監修
APPSWINGBY CTO川嶋秀一
株式会社APPSWINGBY  CTO 川嶋秀一

動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。

APPSWINGBY CTO川嶋秀一
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動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。