米国クラウドサービス依存に潜む5つのリスク

米国クラウドサービス依存に潜む5つのリスク

前回は、「突然のサービス停止リスクから企業を守る:米国クラウド依存の隠れた危険性と対策」と題して、イスラエル事例が示すサービス停止の現実についてご紹介しました。

今回は、米国クラウドサービスへの依存度が極度に高まる日本企業の現在地におけるリスクについて考察します。

では、さっそくはじめていきましょう!

米国クラウドサービス依存に潜む5つのリスク

政治・地政学的リスク

国際情勢の変化が企業のクラウド利用に直接的な影響を及ぼす時代が到来しています。

従来の技術リスクやビジネスリスクとは異なり、政治・地政学的リスクは予測が極めて困難であり、かつ発動された場合の影響範囲が広範に及ぶという特徴があります。

国際情勢の変化による影響

現代のクラウドサービスは、国境を越えた複雑なサプライチェーンと規制の網の目の中で提供されており、一つの国際紛争や外交的緊張が、遠く離れた地域の企業システムにまで連鎖的な影響を及ぼす構造が確立されてしまっているのが現状です。

2024年6月、米国財務省外国資産管理局(OFAC)は、ロシアとベラルーシ向けの特定のソフトウエアと関連するIT関連サービスの提供を広範囲な制裁として規制することを発表しました。

参考記事:U.S. Imposes Sweeping New Sanctions and Export Controls on Russia and Belarus, including on Certain Software and Related Services ※外部リンク

この措置により、クラウドコンサルティング、設計サービス、エンタープライズ管理ソフトウェアやクラウドベースサービスの提供が2024年9月12日から禁止されることとなりました。

この措置の重要な点は、単なる「新規契約の禁止」ではなく、「既存契約の強制終了」が求められた点です。多くの企業は猶予期間中に代替システムへの移行を強いられ、莫大な移行コストと業務中断リスクに直面しました。

ロシア国内の企業に大きな混乱は突発的に発生した事実は言うまでもありません。同国最大級のMicrosoft製品販売代理店であるSoftlineが声明を発表する事態となり、数千社の企業が影響を受けたと推定されています。

さらに、米中間の技術覇権競争も、クラウドサービスに深刻な影響を与えています。

2024年1月、米国商務省は中国企業による米国クラウドサービスへのアクセスを制限する新規制案を発表しました。

この規制では、インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス(IaaS)プロバイダーに対して、顧客の身元確認や外国からのサイバー攻撃防止のための措置を義務付けることが提案されています。

これらの措置により、中国企業が米国のクラウドサービスを通じて高性能AIシステムや量子コンピューティング技術にアクセスすることを防ぐことが目的とされていますが、副次的影響として、正当なビジネス目的で米国クラウドサービスを利用していた中国企業も、突然のアクセス制限や厳格な審査対象となるリスクに晒されています。

2024年8月には、一部の中国組織がAWSなどのクラウドサービスを利用して米国の輸出規制を回避していた事例が報告されました。

参考記事:China AI devs use cloud services to game US chip sanctions ※外部リンク

この発覚により、規制当局は監視体制をさらに強化し、クラウドプロバイダーに対する顧客審査義務が一層厳格化される方向性が示されました。

二国間関係悪化によるサービス制限

国家間の外交関係が悪化した場合、クラウドサービスは「経済制裁の対象」として最も迅速に機能するツールとなります。

デジタルスイッチ一つで数千社のシステムを停止できる即効性は、従来の貿易制裁や金融制裁にはない特徴です。

特に注目すべきは、米国の制裁措置における「セカンダリーサンクション(secondary sanction、二次的制裁)」の概念です。

これは、制裁対象国と取引を行う第三国の企業も制裁対象となり得るという仕組みです。2024年6月に拡大されたロシア制裁では、制裁対象のロシア企業と取引を行う金融機関に対して、セカンダリーサンクションを課す権限が強化されました。

この構造が意味するのは、日本企業であっても、取引先や提携先が制裁対象国の企業と何らかの関係を持っている場合、間接的にクラウドサービスの停止リスクに晒される可能性があるということです。

実際の影響事例

実際の影響事例として、以下のようなシナリオが現実に発生しています。

ケース1:サプライチェーン経由の制裁波及

ある欧州の製造業企業は、ロシアの下請け企業と協業していました。

米国の制裁発動後、その下請け企業が制裁リストに追加されたことにより、親企業が利用していたAzureアカウントに対しても審査が入り、一部機能が停止される事態となりました。

結果として、グローバルサプライチェーン全体のデータ連携システムが機能不全に陥り、数週間にわたる生産停止を余儀なくされました。

ケース2:データ所在地による突然の規制適用

アジアの金融機関が、コスト効率化のためにデータの一部をロシアのデータセンター経由で処理するクラウド構成を採用していました。

2024年9月の制裁発動により、ロシア領内のデータセンター経由での処理が禁止され、システムアーキテクチャの緊急変更が必要となりました。

移行には3ヶ月を要し、その間の業務効率低下による損失は数億円規模に達したと報告されています。

さらに深刻なのは、「予告なしのサービス停止」が標準となりつつある点です。

通常のメンテナンスや計画停止では最低でも数週間前の通知が行われますが、政治的理由による停止では、セキュリティ上の理由から事前通知なしで即時停止されるケースが増加しています。

2025年1月には、米国財務省が中国のサイバーセキュリティ企業Integrity Technology Groupを制裁対象に追加しました。この企業は複数の米国企業へのサイバー攻撃に関与したとされ、同社に関連するすべてのクラウドアカウントが即座に凍結されました。

このような事例は、「自社が直接制裁対象でなくても、取引先や関連企業の行動によって連鎖的にサービス停止リスクに晒される」という新たなリスク構造を浮き彫りにしています。

「日本は大丈夫。」という意見もたまに目にしますが、複雑化するサプライチェーンの中で発生しうるリスクを正確に想定することは非常に困難ですし、米国の「セカンダリーサンクション」を予見することも非常に困難です。

システムを開発し、運用する側として考えるべきは、政治・地政学的リスクに対して、企業が具体的に想定すべきシナリオを想定し、リスクへの対策を準備しておくことです。

次回は、「企業が認識すべきリスクシナリオ」について、詳しい解説をする予定です。

APPSWINGBYは、最先端の技術の活用と、お客様のビジネスに最適な形で実装する専門知識を有しております。システム刷新(モダナイゼーション)やシステムリプレース、新規サービスの設計・開発、既存システムの改修(リファクタリング、リアーキテクチャ)、DevOps環境の構築、ハイブリッドクラウド環境の構築、技術サポートなど提供しています。サイト、システムの一新をお考えでしたら、弊社お問い合わせフォームよりお気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人
株式会社APPSWINGBY
株式会社APPSWINGBY マーケティング

APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。

ご支援業種

情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

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監修
APPSWINGBY CTO川嶋秀一
株式会社APPSWINGBY  CTO 川嶋秀一

動画系スタートアップや東証プライム上場企業のR&D部門を経て、2019年5月より株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTO。
Webシステム開発からアプリ開発、AI導入、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトまで幅広く携わる。
C, C++, C#, JavaScript, TypeScript, Go, Python, PHP, Java などに精通し、Vue.js, React, Angular, Flutterを活用した開発経験を持つ。
特にGoのシンプルさと高パフォーマンスを好み、マイクロサービス開発やリファクタリングに強みを持つ。
「レガシーと最新技術の橋渡し」をテーマに、エンジニアリングを通じて事業の成長を支えることに情熱を注いでいる。

APPSWINGBY CTO川嶋秀一
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動画系スタートアップや東証プライム上場企業のR&D部門を経て、2019年5月より株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTO。
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