統合とレジリエンスを両立させるための5つの実践的アプローチ

本記事は、”「統合」と「レジリエンス」 の両立 ~複雑化するシステムを制御する”の続きです。前回の記事では、統合とレジリエンスを両立の必要性や両立の鍵となる考え方について解説しました。”統合とレジリエンスを両立させるための5つの実践的アプローチ”と題して、統合とレジリエンスを両立させるための具体的なアプローチについてご紹介していきます。
前回の記事をまだご覧になっていない場合は、↓の画像から是非ご覧ください。
それではさっそくはじめていきましょう!
- 1. 3.統合とレジリエンスを両立させるための5つの実践的アプローチ
- 1.1. 3.1. アプローチ1:疎結合アーキテクチャの採用とマイクロサービス化
- 1.1.1. 3.1.1. 依存関係の低減と障害局所化の実現
- 1.1.2. 3.1.2. 個別サービスの柔軟なスケールとアップデート
- 1.2. 3.2. アプローチ2:クラウドネイティブ技術の活用と自動化の推進
- 1.2.1. 3.2.1. コンテナ化、オーケストレーションによる可搬性と迅速なデプロイ
- 1.2.2. 3.2.2. IaC(Infrastructure as Code)によるインフラの自動プロビジョニングと復旧
- 1.3. 3.3. アプローチ3:分散型データ管理とデータレプリケーション
- 1.3.1. 3.3.1. 単一障害点の排除とデータ可用性の向上
- 1.3.2. 3.3.2. 異なるロケーションへのデータ分散とDR(Disaster Recovery)対策
- 1.4. 3.4. アプローチ4:徹底的な監視と早期検知、自動復旧の仕組み
- 1.4.1. 3.4.1. システム全体の可視化と異常の迅速な特定
- 1.4.2. 3.4.2. アラート通知と自動修復プロセスの実装
3.統合とレジリエンスを両立させるための5つの実践的アプローチ
3.1. アプローチ1:疎結合アーキテクチャの採用とマイクロサービス化
3.1.1. 依存関係の低減と障害局所化の実現
疎結合アーキテクチャとは、システムを構成する各コンポーネントが互いに独立性が高く、直接的な依存関係を最小限に抑える設計思想です。この考え方を具現化する代表的なものがマイクロサービスアーキテクチャです。
マイクロサービスアーキテクチャでは、一つの大きなアプリケーションを、それぞれが独立した機能を持つ小さなサービス群に分割します。これらのサービスは、軽量なAPI(主にRESTful APIやgRPC)を通じて連携し、互いの実装の詳細を知る必要はありません。
疎結合とマイクロサービス化によって、以下のようなレジリエンス向上の効果が期待できます。
- 障害の局所化: 一つのマイクロサービスに障害が発生しても、他の独立したサービスには影響が及びにくいです。これにより、システム全体の停止を防ぎ、影響範囲を最小限に抑えることができます。
- 柔軟なデプロイとアップデート: 各マイクロサービスは独立してデプロイやアップデートが可能であるため、一部の障害対応や機能追加が他のサービスに影響を与えるリスクを低減できます。
- 技術スタックの多様性: 各マイクロサービスは、その機能に最適なプログラミング言語やフレームワーク、データベースなどを自由に選択できるため、技術的な制約によるボトルネックを解消し、最適な技術でレジリエンスを高めることができます。
3.1.2. 個別サービスの柔軟なスケールとアップデート
マイクロサービスアーキテクチャのもう一つの大きな利点は、各サービスを個別にスケールできることです。特定のサービスに負荷が集中した場合でも、そのサービスのリソースだけを増強することで対応でき、システム全体のパフォーマンスを維持しやすくなります。
また、各サービスが独立しているため、アップデートや改修を行う際にも、システム全体を停止させる必要がありません。ローリングアップデートなどの手法を用いることで、サービスを稼働させたまま新しいバージョンに移行することが可能となり、ダウンタイムを最小限に抑えることができます。
ここで具体例をひとつご紹介しておきます。
Netflixは米国のビデオ・オン・デマンド・ストリーミング・メディア・サービスで日本でも多くの利用者を抱えている企業ですが、初期のモノリシックなアーキテクチャからマイクロサービスアーキテクチャへの移行を成功させた代表的な企業でもあります。
彼らは、動画ストリーミング、ユーザー管理、レコメンデーションなど、様々な機能を独立したマイクロサービスとして構築し、それぞれのサービスを個別にスケールやアップデートすることで、高負荷なトラフィックにも耐えうる、可用性の高いシステムを実現しています。
Netflix テックブログで詳しく紹介されていますので、もし興味がある方はここからブログに訪れてみてください。
3.2. アプローチ2:クラウドネイティブ技術の活用と自動化の推進

3.2.1. コンテナ化、オーケストレーションによる可搬性と迅速なデプロイ
クラウドネイティブ技術は、クラウド環境の特性を最大限に活かすために設計された技術群です。その中でも、コンテナ化とオーケストレーションは、システムのレジリエンス向上に大きく貢献します。
コンテナ化(Dockerなど) は、アプリケーションとその依存関係を軽量な実行環境であるコンテナにパッケージングする技術です。これにより、異なる環境間でのアプリケーションの可搬性が高まり、開発環境、テスト環境、本番環境での動作の一貫性を保証することができます。また、コンテナは起動や停止が高速であるため、障害発生時の迅速な復旧やスケールアウトを容易にします。
オーケストレーション(Kubernetesなど) は、複数のコンテナ化されたアプリケーションのデプロイ、管理、スケールなどを自動化するプラットフォームです。障害が発生したコンテナを自動的に再起動したり、負荷に応じてコンテナの数を自動的に増減させたりする機能を提供し、システムの可用性とレジリエンスを高めます。
関連サービス:クラウドソリューション
3.2.2. IaC(Infrastructure as Code)によるインフラの自動プロビジョニングと復旧
IaC(Infrastructure as Code)とは、インフラストラクチャの構成をコードとして記述し、バージョン管理することで、インフラの構築、変更、管理を自動化する手法です。
IaCを活用することで、以下のようなレジリエンス向上の効果が期待できます。
- 環境の一貫性: コードで定義されたインフラストラクチャは、常に同じ構成でプロビジョニングされるため、環境による差異が原因で発生する障害を低減できます。
- 迅速な復旧: 障害発生時に、コード化された構成情報に基づいて、迅速に新しいインフラストラクチャを立ち上げ、システムを復旧させることができます。
- DR(Disaster Recovery)の効率化: 異なるリージョンやアベイラビリティゾーンに、コードに基づいて自動的にDR環境を構築することができます。
- 構成管理の自動化: インフラストラクチャの変更履歴がコードとして管理されるため、変更内容の追跡やロールバックが容易になり、設定ミスによる障害リスクを低減できます。
laC(Infrastructure as Code)によるインフラの自動プロビジョニングと復旧を実現する場合の具体的な方法として、AWS CloudFormationやTerraformなどのIaCツールを利用することで、ネットワーク構成、サーバー構成、ロードバランサーの設定などをコードとして管理し、必要な時に自動的にプロビジョニングしたり、障害発生時に迅速に復旧したりすることができます。
3.3. アプローチ3:分散型データ管理とデータレプリケーション
3.3.1. 単一障害点の排除とデータ可用性の向上
システム全体のレジリエンスを高めるためには、データ管理においても単一障害点を排除し、データの可用性を向上させることが重要です。集中型のデータベースに依存するのではなく、データを複数の場所に分散して管理する分散型データ管理システムや、データの冗長性を確保するためのデータレプリケーション技術を活用します。
分散型データベース は、データを複数のノードに分散して格納し、並行処理を行うことで、高いスケーラビリティと可用性を実現します。一部のノードに障害が発生しても、他のノードが処理を継続できるため、システム全体の停止を防ぎます。
データレプリケーション は、データを複数の場所に複製する技術です。プライマリデータベースのデータがリアルタイムまたは定期的にセカンダリデータベースにコピーされるため、プライマリデータベースに障害が発生した場合でも、セカンダリデータベースに切り替えることで、データの損失を防ぎ、システムの継続性を確保できます。
3.3.2. 異なるロケーションへのデータ分散とDR(Disaster Recovery)対策
より強固なレジリエンスを実現するためには、データを地理的に異なる複数のロケーション(異なるアベイラビリティゾーンやリージョン)に分散させることが有効です。これにより、単一のデータセンターにおける大規模な障害(自然災害、停電など)が発生した場合でも、他のロケーションのデータを利用して事業を継続することができます。
クラウドプロバイダーは、このような地理的な冗長性を提供するための様々なサービスを提供しています。例えば、AWSのMulti-AZ構成やMulti-Region構成、AzureのAvailability ZonesやPaired Regionsなどが挙げられます。
金融機関など、極めて高い可用性が求められるシステムでは、複数のデータセンターにデータベースを同期的にレプリケーションし、自動フェイルオーバーの仕組みを構築することで、ほぼダウンタイムなしでのシステム運用を実現しています。
過去に某金融機関のDRプロジェクトに携わったことがあるのですが、規模が規模だけに色々と大変でした^^;
3.4. アプローチ4:徹底的な監視と早期検知、自動復旧の仕組み
3.4.1. システム全体の可視化と異常の迅速な特定
システム統合が進み、複雑化する環境においては、システム全体の状況を常に把握し、異常を早期に検知するための徹底的な監視体制が不可欠です。
モニタリングツール を導入し、CPU使用率、メモリ使用量、ネットワークトラフィック、ディスクI/O、アプリケーションの応答時間、エラーログなど、様々なメトリクスを継続的に監視します。また、 ロギングシステム を構築し、システムやアプリケーションの動作状況を詳細に記録することで、障害発生時の原因究明や事後分析に役立てます。
さらに、これらの監視データに基づいて、異常なパターンや閾値を超過した場合に自動的にアラートを発信する アラート通知システム を構築することで、障害の発生を未然に防いだり、発生した場合でも迅速に対応を開始したりすることができます。
3.4.2. アラート通知と自動修復プロセスの実装
単に監視するだけでなく、検知された異常に対して自動的に対応する仕組みを実装することも、レジリエンスを高める上で重要です。
例えば、CPU使用率が一定の閾値を超えた場合に、自動的にサーバーのスケールアウトを行う、アプリケーションのエラー率が上昇した場合に、問題のあるインスタンスを自動的に再起動する、といった自動修復プロセスを構築することができます。
自己修復機能 を実装することで、人的な介入なしにシステムが自動的に障害から回復できるようになり、ダウンタイムを大幅に短縮することができます。
具体的な例をひとつ挙げてみますと、Kubernetesなどのオーケストレーションプラットフォームは、コンテナのヘルスチェックを行い、異常を検知したコンテナを自動的に再起動する機能を提供しています。また、AWS Auto Scalingなどのサービスを利用することで、負荷状況に応じて自動的にEC2インスタンスを増減させることができます。
次回は、「統合とレジリエンスを両立させるための5つの実践的アプローチ」をご紹介します。
APPSWINGBYでは、システムの「統合とレジリエンス」以外にもシステムの新規開発、再設計・最適化、リファクタリング、リアーキテクチャによるクラウドネイティブ化など、お客様のデジタル変革を支援する幅広いサービスを提供しております。
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この記事を書いた人

株式会社APPSWINGBY マーケティング
APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。
ご支援業種
情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

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監修

株式会社APPSWINGBY CTO 川嶋秀一
動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。

株式会社APPSWINGBY CTO 川嶋秀一
動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。