Google AI Modeのクエリファンアウト(Query Fan-out)技術:検索エンジンアーキテクチャの革新

Google AI Modeのクエリファンアウト(Query Fan-out)技術:検索エンジンアーキテクチャの革新

Googleは9日、日本の「Google 検索」において、「AIモード」を開始すると発表しました。米国では、Google AI Modeが2025年5月に導入されて以来、Webサイトへの流入が激減したなどと何かと話題の多かったAI機能が日本でもリリースされてることになりました。

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さて、今回はGoogle AI Modeでも採用されており、また、検索エンジニアリング界で注目を集めているのが「クエリファンアウト(Query Fan-out)」という技術についての解説です。本記事では、この革新的な技術について技術的な観点から詳しく解説していきます。

では、さっそくはじめていきましょう!

クエリファンアウトとは何か

さっそくですが、クエリファンアウト(Query Fan-out)とは、ユーザーが入力した単一の検索クエリを複数のサブクエリに分解し、それらを並列処理することで、より包括的で多様な情報を取得する情報検索技術のことです。

基本的な動作原理

クエリファンアウトの基本的な動作は、以下の3つのステップで説明できます。

1.クエリの受け取りと分割

クライアントから送られてきた1つのクエリを、ファンアウトを制御するルーターまたはコーディネーターが受け取ります。このルーターは、クエリの内容やアクセスするデータに基づいて、クエリを複数の小さなサブクエリに分割します。

2.クエリの並列送信

分割されたサブクエリは、システム内の複数のデータベースサーバーやインデックスサーバーに並列して送信されます。これらのサーバーはそれぞれ独立してサブクエリを実行します。この並列処理が、ファンアウトによる処理速度向上の中核です。

3.結果の集約と返却

各サーバーがサブクエリの実行を終えると、その結果をルーターに返します。ルーターは、すべてのサーバーからの結果が集まるのを待ち、それらを統合して1つの完全な最終結果を作成します。最後に、この統合された結果がクライアントに返されます。コンテキスト最適化が行われます。

クエリファンアウトのメリットとデメリット

メリット

  1. 応答速度の向上: クエリを複数のサーバーに分散して処理することで、単一のサーバーで処理するよりも大幅に高速な応答が可能になります。
  2. スケーラビリティ: システム全体のデータ量やアクセスが増加しても、サーバーを追加するだけで容易にスケールアウトできます。
  3. 可用性: 一部のサーバーがダウンしても、他のサーバーでクエリを処理し続けることができるため、システムの可用性が高まります。

デメリット

  1. システム複雑性の増大: ルーターやコーディネーターが必要になるため、システムの設計や管理が複雑になります。
  2. ネットワークのオーバーヘッド: クエリの分割と結果の集約のために、ネットワーク上の通信量が増加することがあります。
  3. データの同期: 複数のサーバー間でデータの一貫性を保つための同期処理が必要になる場合があります。

技術的実装の詳細

アーキテクチャレベルでの実装

クエリファンアウトのアーキテクチャレベルでの実装は、主にルーター/コーディネーターシャード化されたデータベース(またはインデックス)、そして非同期通信メカニズムの3つの主要な要素で構成されいると言われていますが、最後に大事なマルチソースデータ統合も付け加えておきます。

1. ルーター/コーディネーター

クエリファンアウトの中核をなすのがルーターまたはコーディネーターです。このコンポーネントは以下の役割を担います。

  • クエリの受け取りとパース: クライアントからの単一クエリを受け取り、その構造と内容を解析します。
  • ルーティングロジック: クエリに含まれるキーや条件に基づいて、どのシャードにクエリを転送すべきかを決定します。例えば、ユーザーIDが1から100のデータはシャードA、101から200のデータはシャードBに保存されているといったルーティングマップを参照します。
  • クエリの並列送信: ルーティングロジックに従い、分割されたクエリ(サブクエリ)を複数のターゲットシャードに同時に送信します。
  • 結果の集約とマージ: 各シャードから返される部分的な結果を待ち、それらを統合して最終的な完全な結果セットを作成します。これには、ソート、フィルタリング、集計などの後処理が含まれることがあります。

2. シャード化されたデータベースまたはインデックス

データベースやインデックスは、データの特性に応じて複数の独立したパーティション(シャード)に分割されます。このシャード化は、クエリファンアウトを可能にする前提条件です。

  • シャードキー: データを分割するための基準となるカラム(例: user_id, product_category, timestampなど)をシャードキーと呼びます。このキーによって、特定のデータがどのシャードに保存されるかが決まります。
  • データ分散: シャードキーに基づいて、データが複数のサーバーに均等に分散されます。これにより、単一のサーバーに負荷が集中することを防ぎます。

3. 非同期通信メカニズム

ルーターと各シャード間の通信は、非同期で行われるのが一般的です。

これにより、ルーターは1つのシャードからの応答を待つことなく、次のシャードにクエリを送信し続けることができます。

  • 並列処理: ルーターが複数のサブクエリを同時に送信し、各シャードが独立して処理を進めるため、全体の処理時間が最も遅いシャードの応答時間に収束します。
  • スレッドプール: ルーターは通常、複数のスレッドで構成されるスレッドプールを使用して、各シャードへの通信と結果の集約を並行して行います。

マルチソースデータ統合

Google AI Modeのクエリファンアウトにおける「マルチソースデータ統合」は、検索システムの核心的な技術要素です。以下にあげるデータソースからデータを取得しつつ、この複雑なマルチソースデータを統合することにより、Google AI Modeは単一のクエリに対して、構造化された事実情報からリアルタイムの動的データまで、包括的で正確な情報を提供することが可能にしています。

  • Google Knowledge Graph
  • リアルタイムWebインデックス
  • Google Shopping Graph
  • Google Finance
  • その他のドメイン特化型データベース

処理フロー

クエリファンアウトの処理フローは概ね以下のフローになっているとされています。

ユーザークエリ入力
    ↓
LLMによるクエリ分解
    ↓
サブクエリ生成(N個)
    ↓
並列検索実行(複数データソース)
    ↓
結果の関連性評価・フィルタリング
    ↓
コンテンツチャンク抽出
    ↓
LLMによる統合・合成
    ↓
最終回答生成

クエリファンアウト技術は、検索エンジンアーキテクチャにおける大きな進歩を表しています。単一クエリの線形処理から、多次元並列処理への転換は、より豊富で正確な情報提供を可能にしていますが、同時に新しい技術的課題も生み出しています。

この技術の理解と適切な対応は、今後の検索エンジニアリング、SEO戦略、そしてコンテンツ開発において極めて重要になるでしょう。技術者は、この新しいパラダイムに対応したシステム設計とコンテンツ戦略を検討する必要があります。

APPSWINGBYは、最先端の技術の活用と、お客様のビジネスに最適な形で実装する専門知識を有しております。貴社がこの技術革新の技術を余すことなく活用し、競争優位性を確立できるようAI開発から業務システムの全体設計・開発、既存システムの改修(リファクタリング、リアーキテクチャ)、DevOps環境の構築、ハイブリッドクラウド環境の構築、技術サポートなど提供しています。業務アプリや業務システムの一新をお考えでしたら、弊社お問い合わせフォームよりお気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人
株式会社APPSWINGBY
株式会社APPSWINGBY マーケティング

APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。

ご支援業種

情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

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監修
APPSWINGBY CTO川嶋秀一
株式会社APPSWINGBY  CTO 川嶋秀一

動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。

APPSWINGBY CTO川嶋秀一
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