LLMの可能性を広げる「MCPサーバー」とは?ツール連携の新しい形を解説

LLMの可能性を広げる「MCPサーバー」とは?ツール連携の新しい形を解説

生成AIの急速な普及により、Large Language Model(LLM)を業務システムに統合する動きが加速しています。

しかし、実際のエンタープライズ環境でLLMを活用する際には、多くの技術的課題に直面します。特に、LLMが外部ツールやシステムと連携する場面において、信頼性や確実性の担保は重要な経営課題となっています。

本稿では、これらの課題を解決する新しいアプローチとして注目される「MCPサーバー」について、技術的な観点から詳しく解説します。

では、さっそくはじめていきましょう!

1. はじめに:LLMツール連携における現状の課題

LLMのツール実行における信頼性の問題

LLMは自然言語処理において高い能力を発揮しますが、外部ツールの実行においては本質的な課題を抱えています。

現在の主流であるFunction Calling方式では、LLMが「どのツールを呼び出すべきか」を推論し、その結果をJSON形式で出力します。

しかし、このアプローチには以下のような信頼性上の問題があります。

信頼性上の問題

既に生成AIサービスをお使いであれば、気が付いている方も多くいらっしゃると思いますが、現在のLLMは確率的な出力の不安定性が最も深刻な問題となっています。

LLMは統計的なモデルであるため、同じ入力に対しても毎回異なる出力を生成する可能性があります。

これは創造的なタスクでは利点となりますが、業務システムの文脈では重大なリスクとなってしますのです。

具体的な例をあげて考え見ましょう。

  • ツール名のスペルミスや表記揺れ(例:「send_email」と「sendEmail」の混在)
  • パラメータの型不一致(文字列として渡すべき値を数値で出力する)
  • 必須パラメータの欠落や不要なパラメータの追加
  • JSON構造の不完全な出力(閉じ括弧の不足など)

ある金融機関の実証実験では、GPT-4を使用したFunction Calling実装において、約8%のリクエストでツール呼び出しが失敗したという報告があげられています。

これは、1000回の実行で80回の失敗を意味し、業務システムとしては許容できない水準です。

さらに、ツール選択の誤りも頻発します。

似た機能を持つ複数のツールが存在する場合、LLMは文脈から適切なツールを選択できないことがあります。

例えば、「顧客情報を更新する」というタスクに対して、「update_customer」と「modify_customer_details」という2つのAPIが存在する場合、どちらを選ぶべきかの判断に迷い、最終的に選択した理由、根拠が曖昧になります。

エラーハンドリングの不透明性も問題です。

ツール実行が失敗した際、LLMは単にエラーメッセージを返すだけで、リトライすべきか、別のアプローチを試すべきか、ユーザーに確認すべきかの判断が(今のところ)一貫していません。

従来のAPI統合アプローチの限界

従来のAPI統合アプローチの限界

従来のLLMとAPIの統合アプローチは、主に以下の3つのパターンに分類されます。

パターン1

第一に、直接的なプロンプトエンジニアリングによるアプローチです。これは、プロンプト内にAPI仕様を記述し、LLMにAPIコールの生成を依頼する方法です。

しかし、このアプローチには次にような限界があります。

  • API仕様の記述量が増えるとプロンプトが肥大化し、コンテキスト長の制約に直面する
  • 複数のAPI間の依存関係や実行順序を正確に表現することが困難
  • セキュリティ上の懸念(APIキーや認証情報の扱い)

パターンその2

第二に、Function Callingを用いたアプローチです。

OpenAI、Anthropic、Googleなどの主要LLMプロバイダーが提供するこの機能は、ツール定義を構造化して渡すことができます。

しかし、以下の課題が残されています。

課題領域具体的な問題ビジネスインパクト
実行保証ツール呼び出しの提案のみで実行は別プロセス実装の複雑化、デバッグの困難さ
状態管理複数ツールの連鎖実行時の状態追跡が困難データ不整合のリスク
スケーラビリティツール数が増えると定義の管理が煩雑化保守コストの増大
標準化の欠如プロバイダーごとに実装方法が異なるベンダーロックインのリスク
Function Callingを用いたアプローチの問題とビジネスインパクト

パターンその3

第三に、カスタムオーケストレーションレイヤーの構築です。

LangChainやLlamaIndexなどのフレームワークを使用して、独自の統合層を開発するアプローチです。

このアプローチは柔軟性が高い反面、以下の課題があります。

  • 開発・保守コストの高さ(初期開発に平均3〜6ヶ月を要する)
  • フレームワークのバージョンアップへの追随負担
  • チーム内での技術的知識の属人化
  • テスト・デバッグの複雑さ

実際に、海外の某製造業の企業では、LangChainを使用したカスタムオーケストレーションシステムの構築に6ヶ月を費やしましたが、LLMプロバイダーのAPI変更により、さらに2ヶ月の改修作業が必要となった事例が報告されています。

エンタープライズ領域で求められる確実性

エンタープライズシステムにおいて、LLMツール連携に求められる確実性の水準は、コンシューマー向けアプリケーションとは大きく異なります。

可用性の要件として、多くの基幹システムでは99.9%以上のSLA(Service Level Agreement)が求められます。

これは、年間の許容ダウンタイムがわずか8.76時間であることを意味します。

LLMのツール実行が1%の確率で失敗する場合、これは許容できる水準を大きく下回るのです。

データ整合性の保証も不可欠

データ整合性の保証も不可欠です。例えば、在庫管理システムと連携する場合、以下のような要件があります。

  • トランザクションの原子性(全ての操作が成功するか、全てが失敗するか)
  • 更新操作の冪等性(同じ操作を複数回実行しても結果が変わらない)
  • 並行実行時のロック機構
  • ロールバック機能

監査可能性とコンプライアンス

監査可能性とコンプライアンスも重要な要素です。金融機関や医療機関では、以下の情報を確実に記録する必要があります。

  • いつ、誰が、どのツールを、どのパラメータで実行したか
  • 実行結果とその影響範囲
  • エラーが発生した場合の詳細な原因
  • データの変更履歴とバージョン管理

セキュリティとアクセス制御の厳密

セキュリティとアクセス制御の厳密性も求められます。LLMが実行できる操作を細かく制御し、権限のないツールへのアクセスを防ぐ必要があります。

特に、以下の観点が重要です。

  • ロールベースアクセス制御(RBAC)の実装
  • APIキーや認証情報の安全な管理
  • 実行ログの暗号化と改ざん防止
  • ゼロトラストセキュリティモデルへの対応

パフォーマンスとレスポンスタイムの予測可能性

パフォーマンスとレスポンスタイムの予測可能性も必要です。ユーザーが待機する対話型システムでは、レスポンスタイムの上限が明確に定義されています。

LLMの推論時間が不安定だと、システム全体のSLAを達成できません。

これらの要件を満たすためには、従来のアドホックなツール連携アプローチでは不十分であり、より構造化された、標準化されたアプローチが必要になってくるのです。

ここで登場するのがMCPサーバーです。

MCPサーバーは、まさにこの課題に対する解答として登場した技術です。

次章では、MCPサーバーの技術的定義とそのアーキテクチャについて詳しく解説します。

APPSWINGBYは、最先端の技術の活用と、お客様のビジネスに最適な形で実装する専門知識を有しております。システム刷新(モダナイゼーション)やシステムリプレース、新規サービスの設計・開発、既存システムの改修(リファクタリング、リアーキテクチャ)、DevOps環境の構築、ハイブリッドクラウド環境の構築、技術サポートなど提供しています。

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この記事を書いた人
株式会社APPSWINGBY
株式会社APPSWINGBY マーケティング

APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。

ご支援業種

情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

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監修
APPSWINGBY CTO川嶋秀一
株式会社APPSWINGBY  CTO 川嶋秀一

動画系スタートアップや東証プライム上場企業のR&D部門を経て、2019年5月より株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTO。
Webシステム開発からアプリ開発、AI導入、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトまで幅広く携わる。
C, C++, C#, JavaScript, TypeScript, Go, Python, PHP, Java などに精通し、Vue.js, React, Angular, Flutterを活用した開発経験を持つ。
特にGoのシンプルさと高パフォーマンスを好み、マイクロサービス開発やリファクタリングに強みを持つ。
「レガシーと最新技術の橋渡し」をテーマに、エンジニアリングを通じて事業の成長を支えることに情熱を注いでいる。

APPSWINGBY CTO川嶋秀一
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動画系スタートアップや東証プライム上場企業のR&D部門を経て、2019年5月より株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTO。
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