NISTサイバーセキュリティフレームワーク(CSF)2.0徹底解説

はじめに

デジタル変革におけるサイバーセキュリティの重要性

今日、多くの企業は競争力を維持・強化するため、デジタル変革(DX)の推進に取り組んでいます。しかし、DXの推進が進むにつれて、サイバー攻撃のリスクも劇的に高まっています。

情報漏洩やランサムウェア攻撃による被害額は年々増加しており、IBMの「2023年データ侵害のコストに関する調査レポート(外部リンク)」によると、特に2023年は、データ漏洩の平均被害額は企業1件あたり445万ドル(日本円で約6億5000万円)に達したとの報告例も出ているほどです。

こうした状況下、企業に求められるのは単にテクノロジーを活用することだけではなく、安全性を担保した戦略的な取り組みです。ここで重要となるのが、サイバーセキュリティフレームワークの採用です。

今回は、企業が組織的・体系的にセキュリティ対策を強化し、リスク管理を実施するための実務的なガイドラインとして世界的に広く利用されているNISTサイバーセキュリティフレームワーク(CSF)についてご解説していきます。

NISTサイバーセキュリティフレームワーク(CSF)とは?

NISTサイバーセキュリティフレームワーク(CSF)は、米国国立標準技術研究所(NIST)が策定した、組織がサイバーセキュリティリスクを管理するためのフレームワークです。

組織がサイバーセキュリティ体制を構築・改善する際に、リスク管理、セキュリティ対策の計画、および実施を支援することを目的としてつくれており、3つの主要な構成要素で構成されています。

  1. コア(Core): サイバーセキュリティ活動を「特定」「防御」「検知」「対応」「復旧」の5つの機能に分類し、それぞれの機能に必要なセキュリティ対策を定義。
  2. ティア(Tier): 組織のサイバーセキュリティリスク管理の成熟度を4段階で評価。
  3. プロファイル(Profile): 組織のビジネスニーズ、リスク許容度、およびリソースに基づいて、目標とするサイバーセキュリティ体制を定義。

なぜ今NIST CSF 2.0なのか?

2024年1月に米国国立標準技術研究所(NIST)は、サイバーセキュリティフレームワークの最新版「NIST CSF 2.0 #外部リンク」を公開しました。

従来の1.1バージョンからの大きな変化として、CSF 2.0では、より柔軟で具体的な対応策や最新の技術動向(例えば、クラウドネイティブ環境、AI、IoT、ゼロトラストモデル)への対応が明記されています。

また、NIST CSF 2.0は単なる技術的ガイドラインにとどまらず、組織全体の戦略や経営判断をサポートするための統合的アプローチを提供しています。そのため、DX推進を図る企業にとって、セキュリティとビジネス成果を明確に紐付けられるフレームワークとして重要性が増しているのです。

米国の金融業界や大手製造業では、NIST CSF 2.0を導入したことでセキュリティリスクを明確に可視化し、経営判断やリソース配分を効率的に行っています。

日本国内でも、金融や製造業、さらには公共機関において導入検討が活発に行われています。

こうした背景から、NIST CSF 2.0は企業競争力の維持・向上において、今後、極めて重要な役割を担うと言われているのです。

NISTサイバーセキュリティフレームワーク(CSF)2.0とは

NIST CSFの概要と目的

NISTサイバーセキュリティフレームワーク(CSF)は、米国国立標準技術研究所(NIST)が作成した、企業がサイバーリスクを管理しセキュリティを強化するためのフレームワークです。主に次の3つの目的を持っています。

  1. サイバー攻撃への予防策・対策の策定
  2. リスク管理プロセスの標準化と効率化
  3. サイバーセキュリティ投資のROIを明確化

NIST CSFは、業種や企業規模を問わず幅広く適用可能であり、経営層と技術者が共通言語を持つためのツールとしての役割も担っています。

CSF 1.xから2.0への主要な変更点とその背景

最新のCSF 2.0への改訂にあたり、次の重要な変更点が挙げられます。

  • クラウド環境やIoT、AI技術などの新たな技術環境への対応の強化
  • 「ゼロトラストセキュリティモデル」への明確な対応策を追加
  • 組織のサイバーセキュリティ体制を評価するための新たなガイドラインや評価指標の導入

これらの変更は、企業が直面する新たな脅威とデジタル化の進展を背景に行われました。

例えば、クラウド移行やIoTデバイスの急増は、攻撃対象を大幅に拡大させ、ゼロトラストモデルのような新しいセキュリティ戦略を必要としています。

これにより、企業は最新の脅威に対処しつつ、持続的なデジタル変革を実現できるようになっています。

デジタル変革を支える戦略としてのNIST CSF 2.0

ビジネス成果と技術を紐づけるためのフレームワーク

デジタル変革(DX)の推進において、多くの企業が直面する課題の一つは、テクノロジー投資とビジネス成果との間にあるギャップを埋めることです。

このギャップを解消するために重要となるのが、戦略的かつ体系的なアプローチです。その有力な方法が、NISTサイバーセキュリティフレームワーク(CSF)2.0の活用です。

NIST CSF 2.0は単なるセキュリティのチェックリストではなく、企業の経営層と技術部門が共通言語でコミュニケーションを取るための包括的なフレームワークです。各企業のビジネス戦略や目標と密接に連携しており、セキュリティ対策が直接的に企業の競争力向上に寄与することを明確に示すことができます。

例えば、企業が新たなオンラインサービスを展開する場合、セキュリティリスクを適切に管理することが顧客の信頼向上やサービスの安定稼働に直結します。具体的には、CSF 2.0では次のようなカテゴリとビジネス成果を紐付けています。

  • 「特定(Identify)」:資産管理やリスク評価を行うことで、組織が持つデジタル資産の価値を明確化し、それを保護することでサービス継続性や顧客の信頼性を高めます。
  • 「防御(Protect)」:具体的な防御策を講じることで情報漏洩を防ぎ、企業のブランドや評判の維持に貢献します。
  • 「検知(Detect)」および「対応(Respond)」:迅速な異常検知と対応によって業務停止時間を最小限に抑え、結果として収益損失の軽減を図ります。
  • 「回復(Recover)」:災害復旧計画を整備し、迅速な復旧能力を持つことで、企業の事業継続性を向上させ、競合優位性を確保します。

こうしたフレームワークを実際の業務プロセスに組み込むことで、企業は技術投資の効果を明確に定量化し、経営層への報告や意思決定プロセスを効率的に進めることが可能になります。

経営層が理解すべきサイバーセキュリティの価値創出

経営層にとってサイバーセキュリティの価値創出を理解することは、企業の長期的な成長戦略において不可欠なものです。

サイバーセキュリティは単なるリスク管理の一環ではなく、企業の持続可能な競争優位性を築くための重要な戦略的要素として位置づけられています。

経営層がまず理解すべきなのは、サイバー攻撃による損害がビジネス全体に与えるインパクトの大きさです。

例えば、2023年に発生した大規模なランサムウェア攻撃において、被害企業の約60%が攻撃後半年以内に売上が大幅に減少し、約20%は攻撃を契機に廃業に追い込まれています。こうした実態を踏まえると、セキュリティ対策を「コスト」ではなく「投資」と捉える視点が求められます。

また、サイバーセキュリティの強化が企業価値そのものを高めるという視点も重要です。

例えば、顧客情報の漏洩やサービス停止が発生すると、企業ブランドや顧客からの信頼が著しく低下します。一方、強固なセキュリティ体制を整えることで、顧客の信頼を獲得し、新規顧客獲得や既存顧客の維持、さらには市場シェアの拡大につながります。

NIST CSF 2.0は経営層がこれらの価値を明確に理解し、意思決定を支援するための具体的なガイドラインや指標を提供しています。企業の経営層がサイバーセキュリティの重要性を理解し、そのための資金や人材の適切な投資を行うことで、長期的な収益性と企業価値の向上を実現できます。

最終的には、NIST CSF 2.0を経営戦略の一環として活用することで、組織のデジタル変革を安全かつ持続可能な形で推進できるようになります。経営層の理解と積極的な関与こそが、その成功を確かなものとする鍵となるのです。

次回予告
次の記事では、「NIST CSF 2.0が企業にもたらすビジネス価値」と題して、CSF 2.0の導入が企業にもたらすビジネス成果についてご紹介します。

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株式会社APPSWINGBY
株式会社APPSWINGBY マーケティング

APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。

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情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

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監修
APPSWINGBY CTO川嶋秀一
株式会社APPSWINGBY  CTO 川嶋秀一

動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。

APPSWINGBY CTO川嶋秀一
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動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
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