Mask R-CNNとは

Mask R-CNNは、ディープラーニングに基づく物体検出およびセグメンテーションモデルの一つであり、物体を矩形(バウンディングボックス)で囲むだけでなく、その物体のピクセル単位の正確なマスク(輪郭)を同時に生成することを可能にしたフレームワークのことです。

Mask R-CNNの概要と革新性

Mask R-CNN(Mask Region-based Convolutional Neural Network)は、2017年にFacebook AI Research(FAIR)によって発表されました。これは、物体検出の分野におけるFaster R-CNNを拡張し、新たにインスタンスセグメンテーション(Instance Segmentation)というタスクを実行できるようにしたモデルです。

  • 物体検出(Object Detection): 物体の位置を矩形(バウンディングボックス)で特定し、分類します。
  • セマンティックセグメンテーション(Semantic Segmentation): 画像内のすべてのピクセルを、対応するクラス(意味)に分類します。
  • インスタンスセグメンテーション(Instance Segmentation): セマンティックセグメンテーションに加え、同じクラスに属する個々の物体(インスタンス)を区別し、ピクセル単位でその輪郭を抽出します。

Mask R-CNNは、既存のFaster R-CNNのパイプラインに、非常に小さなオーバーヘッドで並列して動作するマスク生成ブランチを追加することで、検出、分類、セグメンテーションという3つのタスクを単一のネットワークで同時に高精度に実行できるようにしました。

主な目的は、ピクセル単位の正確な物体形状の認識と、個々の物体の識別を両立し、高度な画像理解を実現することです。

Mask R-CNNの主要な構成要素

Mask R-CNNは、Faster R-CNNの主要な構成要素に、マスク生成のためのモジュールと、それを効率化するRoI Align層を加えた構造を持っています。

1. 基盤ネットワークとRPN

  • 特徴抽出: ResNet-FPN(Feature Pyramid Network)などの高性能なCNNが、画像全体の特徴マップを生成します。
  • RPN(Region Proposal Network): 物体が存在しそうな領域の候補(バウンディングボックス)を提案します。

2. RoI Align(Region of Interest Align)

  • 概要: Fast R-CNNやFaster R-CNNで使用されていたRoI Poolingを改良した層です。
  • 革新性:
    • RoI Poolingでは、提案領域を固定サイズの特徴マップに変換する際、**量子化(Quantization)**と呼ばれる丸め込み処理が行われ、ピクセルレベルの空間的な位置情報がわずかに失われていました。セグメンテーションでは、このわずかな位置ずれが輪郭の精度に大きく影響します。
    • RoI Alignは、この量子化を避け、バイリニア補間などの手法を用いて正確な位置から特徴値を抽出します。これにより、ピクセルレベルでの精度が向上し、マスク生成の精度が大幅に改善されました。

3. マスク生成ブランチ

  • 概要: RoI Alignの出力(固定サイズの特徴マップ)を受け取り、ピクセルごとのマスクを生成する小さな畳み込みネットワーク(FCN: Fully Convolutional Network)です。
  • 動作: このブランチは、各提案領域に対して、クラスごとに独立したバイナリマスクを出力します。例えば、10クラスを検出対象とする場合、10種類のマスク(0と1のバイナリマップ)が出力されます。

Mask R-CNNの重要性と応用

Mask R-CNNは、物体検出の性能向上に加え、インスタンスセグメンテーションという新たなタスクを実用的なものにした点で、コンピュータビジョン分野に大きな影響を与えました。

  • 応用分野:
    • 自動運転: 道路上の車両や歩行者を正確な形状で認識し、運転判断に活用。
    • 医療画像解析: 複数の細胞や病変部の輪郭を個別に正確に抽出。
    • 画像編集: 画像内の特定の物体のみを自動で切り抜く(前景抽出)。

Mask R-CNNは、物体認識のタスクを「どこにあるか(検出)」から「どのような形をしているか(セグメンテーション)」へと進化させた、非常に重要なフレームワークです。

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