QoSとは
QoSは、ネットワーク通信において、特定のトラフィック（データ）に対して優先順位付けや帯域幅の予約を行うことで、通信品質を制御・保証するための仕組みのことであり、音声通話やビデオ会議、リアルタイムアプリケーションなどの遅延に敏感なサービスに、安定した通信環境を提供するための技術のことです。
QoSの概要と必要性
QoS（Quality of Service、サービス品質）は、ネットワークインフラストラクチャにおける重要な概念であり、限られた帯域幅の中で、すべてのデータフローを均等に扱うのではなく、ビジネス上の重要度やアプリケーションの要求に応じて、通信リソースを差別化して配分することを可能にします。
従来のネットワーク環境では、すべてのパケットが「ベストエフォート（最善努力）」で処理されていました。この場合、ネットワークが混雑すると、重要なデータ（例：VoIPの音声パケット）も、重要度の低いデータ（例：ファイルダウンロードのパケット）も等しく遅延やパケット損失の影響を受けます。
QoSは、この問題を解決し、音声や動画といったリアルタイム性の高いアプリケーションが必要とする以下の指標を保証するために導入されます。
- 遅延（Latency）: データが送信元から宛先に届くまでの時間。
- ジッタ（Jitter）: 遅延時間のばらつき。
- パケット損失（Packet Loss）: ネットワークの混雑によりパケットが破棄される割合。
- スループット（Throughput）: 単位時間あたりに転送できるデータ量。
主な目的は、ネットワークリソースを効率的に活用しつつ、多様なアプリケーションの通信要件を満たす信頼性の高いサービス品質をエンドユーザーに提供することです。
QoSを実現する主要な技術要素
QoSの制御は、パケットの分類、マーキング、およびそれに基づく処理の優先順位付けによって実現されます。
1. 分類とマーキング
- 分類（Classification）: 受信したパケットを、その送信元IPアドレス、ポート番号、プロトコル、アプリケーションの種類などの基準に基づいて、どのサービス品質グループに属するかを識別します。
- マーキング（Marking）: 分類されたパケットのヘッダーに、そのパケットの優先度やサービスレベルを示すタグ（印）を付与します。
- DiffServ（Differentiated Services）: IPヘッダー内のDSCP（DiffServ Code Point）フィールド（6ビット）を使用して優先度をマークする、現在最も普及している手法です。この値に基づいて、ネットワーク機器はパケットをどのように扱うかを決定します。
- IntServ（Integrated Services）: RSVP（Resource Reservation Protocol）を用いて、ネットワーク内でリソースを明示的に予約する仕組みですが、スケーラビリティの課題から大規模ネットワークでの採用は限定的です。
2. 輻輳管理と輻輳回避
ネットワーク機器（ルーターやスイッチ）の出力キュー（待ち行列）が満杯になった際、QoSマーキングに基づいて輻輳（混雑）を管理・回避します。
- キューイング（Queuing）: パケットの優先度に基づいて、出力キューに並べる順番や処理の配分を決定します。
- 例: 優先キューイング（PQ）や重み付け均等キューイング（WFQ）などがあり、重要なパケットを先に処理することを保証します。
- ドロップ（Dropping/回避）: 輻輳が限界に達した際に、優先度の低いパケットから破棄することで、重要なパケットの遅延や損失を防ぎます。
3. 帯域制御
- シェーピング（Shaping）: ネットワークから出ていくトラフィックを平滑化し、設定された最大レートを超えないように出力を調整することで、ネットワークのバースト的な混雑を防ぎます。
- ポリシング（Policing）: 設定された帯域幅を超過したトラフィックに対して、パケットを破棄したり、DSCP値を下げて優先度を下げたりする措置を講じます。
QoSの応用分野
QoSは、特に以下の分野でサービスの安定稼働に不可欠な要素です。
- VoIP（Voice over IP）: 音声パケットは遅延とジッタに極めて敏感なため、最も高い優先度を付与し、通話品質を確保します。
- ビデオストリーミング・会議: 大容量でありながらリアルタイム性が求められるため、一定の帯域幅を確保し、ジッタを制御することが求められます。
- ミッションクリティカルなデータ: 医療システムや金融取引システムなど、ビジネスの中核を担うアプリケーションの通信に最高レベルの優先度を与え、信頼性を保証します。
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