SENetとは

SENet(Squeeze-and-Excitation Network)は、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の性能向上を目的として開発された深層学習モデルのアーキテクチャです。

その核となるのは「Squeeze-and-Excitation(SE)」ブロックと呼ばれる機構であり、このブロックは、CNNの畳み込み層が出力する特徴マップの各チャネルに対して、その重要度を学習し、動的に重み付けを行うことで、ネットワークの表現力を高めます。SENetは、従来のCNNアーキテクチャにわずかな計算コストを追加するだけで、大幅な性能向上を達成できることが示され、画像認識分野において注目を集めました。

SENet の基本概念

従来のCNNでは、畳み込み演算によって得られた複数の特徴マップのチャネルは、等しく重要であると暗黙的に扱われてきました。しかし、実際には、タスクにとって重要な情報を持つチャネルと、そうでないチャネルが存在します。SENetは、このチャネル間の重要度の違いを明示的にモデル化し、重要なチャネルを強調し、重要でないチャネルを抑制することで、ネットワークがより識別力の高い特徴を学習できるようにします。

SEブロックは、特徴マップを入力として受け取り、「Squeeze」操作と「Excitation」操作という2つの主要なステップを経て、各チャネルに対応する重みを生成します。この重みは、元の特徴マップの各チャネルに適用され、特徴マップが再調整(recalibrate)されます。

Squeeze-and-Excitation(SE)ブロックの仕組み

  1. Squeeze操作: 入力された特徴マップに対して、空間的な情報を集約し、各チャネルを単一の数値に変換します。一般的には、グローバル平均プーリング(Global Average Pooling, GAP)が用いられます。これにより、各チャネルのグローバルな記述子が得られ、そのチャネル全体の情報が集約されます。 入力特徴マップ U∈RH×W×C に対して、Squeeze操作 Fsq​ は次のように定義されます。 zc​=Fsq​(Uc​)=H×W1​i=1∑H​j=1∑W​uc​(i,j) ここで、Uc​ は c 番目のチャネル、H、 W はそれぞれ特徴マップの高さと幅、uc​(i,j) は位置 (i,j) における c 番目のチャネルの値、zc​ は c 番目のチャネルに対応するスカラー値です。これにより、チャネルごとのグローバルな統計量が得られます。
  2. Excitation操作: Squeeze操作で得られたチャネルごとのグローバルな情報 z∈R1×1×C を用いて、各チャネルの重要度を表す重みを生成します。この操作は、通常、2つの全結合層(Fully Connected Layer, FC)と活性化関数(ReLUとSigmoid)によって行われます。最初のFC層でチャネル数を削減し(計算量の削減と非線形性の導入)、ReLU活性化関数を適用した後、次のFC層で元のチャネル数に戻し、Sigmoid関数を適用することで、各チャネルの重みを0から1の範囲に正規化します。 Excitation操作 Fex​ は次のように定義されます。 s=Fex​(z,W)=σ(W2​δ(W1​z)) ここで、W1​∈RrC​×C と W2​∈RC×rC​ はそれぞれ最初のFC層と二番目のFC層の重み、r は削減率(reduction ratio)、δ はReLU関数、σ はSigmoid関数、s∈R1×1×C は各チャネルの重みを表すベクトルです。
  3. スケール操作(Scale): Excitation操作で得られたチャネルごとの重み sc​ を、元の特徴マップ Uc​ の各チャネルに掛け合わせることで、特徴マップを再調整します。 再調整された特徴マップ U~ は次のように計算されます。 U~c​=sc​⋅Uc​ これにより、重要度の高いチャネルは強調され、重要度の低いチャネルは抑制されます。

SENet の特徴と利点

  • 性能向上: チャネル間の依存関係を明示的にモデル化し、重要な特徴を強調することで、画像認識、物体検出、セマンティックセグメンテーションなど、様々なタスクにおいて既存のCNNアーキテクチャの性能を向上させることができます。
  • 軽量性: SEブロックは、わずかなパラメータ数と計算コストの増加で実現できるため、既存のネットワークに容易に組み込むことができます。
  • 汎用性: ResNet、Inceptionなど、様々なCNNアーキテクチャに適用可能です。実際に、ILSVRC 2017画像認識コンペティションでは、SENetを組み込んだResNetベースのモデルが優勝しました。
  • 解釈性: 学習されたチャネルの重みを分析することで、ネットワークが画像内のどの特徴を重要視しているかをある程度理解することができます。

SENet の応用

SENetの基本的なアイデアは、画像認識分野にとどまらず、様々な深層学習モデルやタスクに応用されています。例えば、自然言語処理におけるシーケンスデータのチャネル(埋め込みベクトルの各次元)の重要度を調整する機構や、他のモダリティ(例:画像とテキスト)を組み合わせたマルチモーダル学習における各モダリティの重要度を調整する機構などに応用されています。

SENetは、Squeeze-and-Excitationブロックを導入することで、畳み込みニューラルネットワークにおけるチャネル間の重要度を動的に学習し、特徴表現の質を高める革新的なアーキテクチャです。その高い性能向上効果と比較的低い計算コストから、深層学習を用いた様々な視覚タスクにおいて広く採用され、その後の注意機構(Attention Mechanism)の研究にも大きな影響を与えました。

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