Go言語によるシステムリファクタリング2 :リファクタリングにおけるGo言語の優位性

企業のIT部門を取り巻く環境は、かつてないスピードで変化しています。デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が叫ばれる中、既存のシステム、特に長年にわたって運用されてきた「レガシーシステム」が、新たな価値創造の足かせとなっているケースは少なくありません。
本稿では、Go言語を活用したシステムリファクタリングが、なぜ今、企業の喫緊の課題を解決する有効な手段となるのか、その背景と重要性について解説していきます。
1.6 Go言語リファクタリングによるROI試算モデル
Go言語を用いたシステムリファクタリングは、単なる技術的改善に留まらず、具体的な財務的リターン(ROI: Return on Investment)をもたらします。ここでは、Go言語リファクタリングによるROIを試算するための簡易的なモデルを提示します。
ROI試算モデルの要素
項目 | 定義 | Go言語リファクタリングによる変化の方向性 |
---|---|---|
I (投資額) | リファクタリングにかかる初期費用(人件費、ツール費用など) | – |
R (リターン) | ||
開発効率改善 | 新機能開発・改修にかかる時間の削減(人件費削減) | ↑(コスト削減) |
保守コスト削減 | バグ修正・トラブル対応にかかる時間の削減(人件費削減) | ↑(コスト削減) |
運用コスト削減 | システムの安定化、リソース効率化によるインフラ費用削減 | ↑(コスト削減) |
市場投入速度向上 | 新サービス・機能の早期リリースによる収益増加(機会損失の回避) | ↑(売上増加/損失回避) |
従業員満足度向上 | 開発生産性向上、技術的負債解消によるエンジニアの定着率向上 | ↑(間接的なコスト削減/生産性向上) |
簡易ROI計算式:
ROI=リファクタリング投資額(リファクタリング後の年間利益増−リファクタリング前の年間利益)−リファクタリング投資額×100%
試算例:
ある企業が、年間1億円のシステム保守費用を支出していると仮定します。このうち、複雑なコードベースに起因する非効率な作業やバグ対応に30%が費やされているとします(3,000万円)。
Go言語によるリファクタリングプロジェクトに初期投資として5,000万円を投じ、その結果、保守コストの非効率部分が半減し、年間1,500万円のコスト削減が実現したとします。さらに、新機能開発のリードタイムが20%短縮されたことで、年間1,000万円の売上増加効果があったと仮定します。
この場合のROIは以下のようになります。
- 年間リターン: 1,500万円(保守コスト削減) + 1,000万円(売上増加) = 2,500万円
- 投資額: 5,000万円
ROI=5000万円(2500万円×1年)−5000万円×100%=−50%(1年目)
初年度は投資額が上回るかもしれませんが、これはあくまで短期的な視点です。Go言語リファクタリングの効果は、長期にわたって持続的に発揮されます。
- 2年目以降: 年間2,500万円のプラス効果が継続すると仮定すると、2年間で投資額を回収し、それ以降は純粋な利益となります。
この試算はあくまで簡易的なものですが、リファクタリングが単なるコストではなく、将来の収益を最大化するための戦略的な投資であることを理解する上で重要です。Go言語の特性を活かしたリファクタリングは、短期間での投資回収と中長期的な企業価値向上に貢献できる可能性を秘めています。
2. Go言語がリファクタリングプロジェクトで選ばれる技術的根拠

システムリファクタリングにおいて、数あるプログラミング言語の中からGo言語が特に注目され、実際に多くの成功事例を生み出しているのには明確な技術的根拠があります。ここでは、Go言語がリファクタリングプロジェクトにおいて選ばれる主な理由を、その言語特性から深く掘り下げて解説いたします。
シンプルで堅牢なコードが保守性を高める理由
Go言語は、Googleによって「シンプルさと生産性」を追求して設計されました。その結果、Go言語で書かれるコードは、自然とシンプルで堅牢性が高いという特徴を持ちます。このシンプルさが、リファクタリング後のシステムの保守性を飛躍的に高める上で非常に重要な役割を果たします。
具体的には、以下の点が挙げられます。
- 明瞭な構文と少ない機能: Go言語は、他の多機能な言語(例:Java, C++など)に比べて構文が非常にシンプルで、言語仕様自体もコンパクトです。オブジェクト指向プログラミングにおける継承といった複雑な概念を持たず、インターフェースと構造体によるシンプルな設計を推奨します。これにより、コードの書き方が統一されやすくなり、誰が書いても似たような構造になるため、他者が書いたコードでも容易に理解し、迅速に修正・拡張することが可能になります。リファクタリングによって「負債化しにくい」コードベースを築くことができます。
- 強力な静的型付け: Go言語は静的型付け言語であり、コンパイル時に型の整合性を厳密にチェックします。これにより、実行時エラーの多くを開発段階で発見できるため、バグの混入を未然に防ぎ、システムの安定性を高めます。特に大規模なリファクタリングにおいては、型チェックの恩恵は大きく、安全にコードを変更・再構築できる基盤となります。
- エラーハンドリングの明示性: Go言語では、エラー処理が関数からの戻り値として明示的に行われることが一般的です。try-catchブロックのような例外処理メカニズムは存在せず、エラーの発生を常に意識した記述が求められます。これは一見冗長に見えるかもしれませんが、エラーパスが明確になることで、予期せぬ挙動を防ぎ、システムの堅牢性を向上させます。後からコードを読み解く際にも、どこでどのようなエラーが発生しうるかが一目でわかるため、デバッグや保守作業が格段に楽になります。
- 単一バイナリの生成: Go言語で記述されたアプリケーションは、必要なライブラリが全て含まれた単一の実行可能バイナリとしてコンパイルされます。これにより、デプロイが非常に容易になり、実行環境における依存関係の問題を最小限に抑えることができます。これは、複雑なシステム環境におけるリファクタリング後のデプロイや運用において、大きなメリットとなります。
これらの特性が複合的に作用することで、Go言語は「一度リファクタリングすれば、その後の保守コストが大幅に削減される」という理想的な状況を作り出すことができます。
コンパイル言語としての実行速度とメモリ効率性
Go言語がリファクタリングプロジェクトで選択されるもう一つの大きな理由は、その優れた実行速度とメモリ効率性にあります。これは、特にパフォーマンスが重視される基幹システムや、大量のトラフィックを処理するWebサービスのリファクタリングにおいて、決定的なメリットとなります。
- ネイティブコードへのコンパイル: Go言語は、JavaやPythonのようなインタープリタ言語や仮想マシン上で動作する言語とは異なり、CやC++と同様に直接機械語(ネイティブコード)にコンパイルされます。これにより、実行時に追加のオーバーヘッドが発生せず、非常に高速な処理が可能です。既存システムのボトルネックとなっている部分をGo言語に置き換えることで、劇的なパフォーマンス改善が期待できます。
- 効率的なメモリ管理: Go言語はガベージコレクション(GC)機能を備えていますが、そのGCは非常に効率的に設計されており、プログラムの実行をほとんど妨げません。また、メモリ割り当てのパターンも最適化されており、他の言語に比べてメモリ使用量を抑えることができます。これは、リソースが限られた環境や、多数の同時接続を処理するサーバーアプリケーションにおいて、運用コストの削減に直結します。
- 軽量な並行処理(GoroutineとChannel): Go言語独自の
goroutine
(ゴルーチン)は、OSのスレッドよりもはるかに軽量な並行処理単位です。数百万のゴルーチンを同時に実行しても、システムのオーバーヘッドは最小限に抑えられます。そして、channel
(チャネル)を用いることで、これらのゴルーチン間の安全なデータ通信が可能です。既存の同期処理がボトルネックとなっているシステムをGo言語でリファクタリングすることで、非同期・並行処理を効果的に導入し、スループットと応答性を大幅に向上させることができます。これにより、レガシーなシングルスレッド処理の限界を打ち破り、現代の分散システムに適したアーキテクチャへと進化させることが可能になります。
例えば、あるECサイトのバックエンドシステムが、従来の言語では高負荷時に応答遅延を引き起こしていました。これをGo言語でリファクタリングし、特に商品情報取得APIや決済処理の並行処理化を進めた結果、応答速度が平均で30%改善され、ピーク時のスループットも2倍に向上した事例があります。これにより、ユーザー体験が向上し、結果として売上にも貢献しています。
シンプルな言語仕様による学習コスト最小化
システムリファクタリングプロジェクトを成功させるためには、技術的な側面だけでなく、「人」の側面も非常に重要です。特に、プロジェクトに参加するエンジニアのスキル習得コストは、プロジェクト全体の期間と予算に大きな影響を与えます。Go言語は、この点で大きな優位性を持っています。
- 短い学習曲線: Go言語の言語仕様は非常にシンプルで、覚えるべきことが少ないため、他のプログラミング言語(特にC++, Java, Pythonなどの経験者)を経験したエンジニアであれば、比較的短期間でGo言語の基本的な書き方や思想を習得することが可能です。これにより、リファクタリングプロジェクトの立ち上げフェーズでの学習コストを最小限に抑え、すぐに生産性を発揮できるようになります。
- 統一されたコーディングスタイル: Go言語には、
go fmt
という公式のフォーマッタツールが標準で提供されています。このツールは、Go言語のコードを自動的に整形し、統一されたコーディングスタイルに変換します。これにより、チーム内のエンジニア間でコードの書き方にばらつきがなくなり、レビューや保守作業の効率が向上します。特に大規模なリファクタリングプロジェクトでは、多数のエンジニアが関わるため、コードの一貫性はプロジェクトの成功に不可欠です。 - 豊富なドキュメントとコミュニティ: Go言語は、Googleが開発を主導していることもあり、公式ドキュメントが非常に充実しています。また、世界中に活発な開発者コミュニティが存在し、質問や問題解決のための情報が豊富に提供されています。これにより、学習中の疑問点や開発中の課題に直面しても、迅速に解決策を見つけることができ、プロジェクトの停滞を防ぎます。
これらの要素は、リファクタリングプロジェクトにおける人的リソースの効率化と、プロジェクトの迅速な推進に大きく寄与します。新たな言語への移行に伴う障壁が低いGo言語は、既存のITチームのスキルアップを促し、将来のシステム開発を加速させる上でも戦略的な選択と言えるでしょう。
解説記事「Go言語によるシステムリファクタリング:コスト削減と保守性向上を両立させる実践的アプローチ」の続きは
現在準備中です。
次回は、「Go言語がリファクタリングプロジェクトで選ばれる技術的根拠」の続きとして、「並行処理機能(Goroutine)による高負荷システム対応力」「豊富な標準ライブラリとクロスプラットフォーム対応」等の解説記事を予定しています。
公開までお待ちください。
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この記事を書いた人

株式会社APPSWINGBY マーケティング
APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。
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監修

株式会社APPSWINGBY CTO 川嶋秀一
動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。

株式会社APPSWINGBY CTO 川嶋秀一
動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。