AIが生み出す雇用の二極化-2 米国IT企業のレイオフ──その規模と背景

AIが生み出す雇用の二極化-2 米国IT企業のレイオフ──その規模と背景

2025年10月27日(サンフランシスコ)に、Amazonが約3万人規模の人員削減を行うというニュースが飛び込んできました。

その理由は、新型コロナウイルスの感染拡大によるパンデミック期需要急増に対応してきた過剰採用の調整とコスト削減が目的と報道されています。

前回は「AIが生み出す雇用の二極化 米国の大量レイオフと日本の人手不足、その本質的な違いとは」の中で解説しましたが、2025年の米国企業による人員削減は、その規模と範囲において近年まれに見る水準に達しています。

私達は、その裏には、単なる景気循環による一時的な調整ではなく、AI技術の進化を背景とした構造的な変化が進行している可能性があると考えています。

本記事では、具体的な企業の動向を追いながら、レイオフの真の背景を探ります。

Meta、Starbucks、Oracle、Microsoft、UPSの動向

Metaの大規模再編

Metaは2025年に入ってから、「効率の年」と位置づけた2023年以降の構造改革をさらに加速させています。同社はすでに2022年から2023年にかけて約2万人規模の人員削減を実施しましたが、2025年も追加のレイオフを発表しました。

特筆すべきは、削減対象が単なるコスト部門だけでなく、AIによって代替可能と判断された職種に及んでいる点です。

コンテンツモデレーション、カスタマーサポート、さらには一部のエンジニアリング職まで、「AIによる自動化が可能になった」という理由で削減されています。

マーク・ザッカーバーグCEOは、「AIエージェントが今後多くの業務を担うようになる」と明言しており、人間の労働力からAIへのシフトを戦略の中心に据えています。

Microsoftの選択的削減

Microsoftも2025年に数千人規模の人員削減を実施しました。同社の場合、興味深いのは「AI投資を加速するための再配置」という説明です。

つまり、従来型の業務に従事していた人員を削減し、その資源をAI関連部門に振り向けるという構造転換を進めているのです。

Azure部門では、従来の手動によるクラウド運用業務がAIによって自動化され、その結果として運用担当者の削減が進んでいます。同時に、GitHub CopilotやMicrosoft 365 Copilotといった生成AI製品の開発には大規模な投資が続いており、雇用の「質的転換」が起きています。

Oracleの静かな効率化

データベース大手のOracleは、比較的目立たない形で継続的な人員最適化を進めています。

同社のレイオフは主に、クラウド移行に伴う従来型オンプレミス製品のサポート部門、そして自動化が進んだ営業・マーケティング部門に集中しています。

Oracleは特に、AIを活用した顧客対応システムの導入により、カスタマーサービス部門の大幅な効率化を実現しました。従来であれば数百人が対応していた問い合わせ業務が、AIチャットボットと少数の専門スタッフで処理できるようになったのです。

Starbucksの店舗戦略見直し

小売・飲食業界を代表するStarbucksの人員削減は、他のテック企業とはやや異なる文脈を持っています。

同社は店舗オペレーションの効率化と、モバイルオーダーやAI駆動型の在庫管理システムの導入を理由に、本社機能とサポート部門の縮小を発表しました。

注目すべきは、店舗レベルでもAIによる需要予測、シフト最適化、在庫管理が導入され、店舗マネージャーや地域スーパーバイザーの役割が変化していることです。

これまで人間の経験と勘に頼っていた業務判断の多くが、AIによるデータ分析に置き換わりつつあります。

UPSの物流革命

物流大手のUPSは、2024年に約1万2000人の削減を発表し、2025年もその流れを継続しています。同社の場合、配送ルート最適化、倉庫自動化、そしてAIによる需要予測が人員削減の直接的な要因となっています。

特に、配送計画を立てる業務は従来、熟練したプランナーの経験に大きく依存していましたが、AIによるルート最適化アルゴリズムがこれを代替し始めています。また、仕分けセンターでは自動化設備とAIビジョンシステムの導入により、人手による作業が大幅に削減されています。

「業務効率化」と「AI代替」という本音

企業が公式に発表するレイオフの理由は、多くの場合「業務効率化」「組織の最適化」「成長分野への集中」といった穏やかな表現で語られます。しかし、これらの言葉の背後には、より率直な現実があります。

それは「AIが人間の仕事を代替できるようになった」という事実です。

公式声明と実態のギャップ

企業のプレスリリースを注意深く読むと、興味深いパターンが見えてきます。

表向きは「組織の効率化」と説明しながらも、同時に「AI技術への投資拡大」「自動化の推進」「デジタル変革の加速」といったフレーズが必ず含まれているのです。

これは偶然ではありません。

企業は、AIによる代替という直接的な表現を避けつつ、投資家や市場に対しては「最新技術を活用した効率化を進めている」というメッセージを送る必要があります。

従業員や社会に対する配慮と、株主に対する説明責任のバランスを取ろうとした結果、こうした二重の言語が生まれています。ある意味、これは時代の流れでもあり、仕方がないのかもしれません。

AIが代替している具体的な業務

実際にAIによって代替されている業務を分類すると、以下のようなパターンが見えてきます。

データ処理・分析業務

かつてはアナリストが数日かけて行っていたデータ集計や基礎的な分析が、AIによって数秒で完了するようになりました。Excelとの格闘や簡単な統計処理に時間を費やしていた多くのジュニアアナリストのポジションが消失しています。

カスタマーサポート

一次対応のほとんどはAIチャットボットが処理し、複雑な案件のみが人間のエージェントにエスカレーションされる体制が確立されました。結果として、必要な人員は従来の30〜50%程度に減少しています。

コンテンツ制作とモデレーション

生成AIの進化により、マーケティングコピー、商品説明、基礎的な記事の作成が自動化されています。また、不適切コンテンツの検出と削除も、AIの精度向上によって人手を大幅に削減できるようになりました。

ルーティンワークと管理業務

経費処理、スケジュール調整、会議の議事録作成、基本的なプロジェクト管理といった業務も、AIアシスタントによって効率化され、専任の担当者が不要になりつつあります。

コーディングとテスト

GitHub Copilotなどのコード生成AIの登場により、ジュニアエンジニアが担っていた定型的なコーディング作業や、基礎的なテストコードの作成が自動化されています。これは、エンジニアリング組織の構造そのものを変えつつあります。

株主価値最大化とコスト削減圧力の関係

米国企業のレイオフを理解する上で避けて通れないのが、「株主価値最大化」という経営思想です。

この原則が、AIによる人員削減を加速させる強力なドライバーとなっています。このドライバーは、日本企業をはじめとした世界各国の企業にとっては、大きなマイナスに向かうインパクトになる可能性を秘めています。

四半期ごとの収益プレッシャー

米国の上場企業は、四半期ごとに決算を発表し、市場の期待に応える必要があります。売上成長が鈍化する局面では、利益を確保するためにコスト削減が最も直接的な手段となります。

そして、人件費は多くの企業にとって最大のコスト項目なのです。

AIの登場は、この構造に新たな選択肢を与えました。従来であれば、大規模なレイオフは業績悪化のシグナルとして市場にネガティブに受け止められることもありました。

しかし今日では、「AI活用による効率化」という文脈でのレイオフは、むしろ先進的で戦略的な経営判断として評価されることが増えています。

もちろん、米国内の話ですが。。

投資家が求める「効率性」

機関投資家やアクティビストファンドは、企業に対して常に効率性の向上を求めています。

同業他社がAIによって生産性を向上させているのに、自社がそれをしていないとすれば、それは経営の怠慢とみなされます。

実際、多くの企業の決算説明会では、「AI活用による効率化」「自動化による人員最適化」が投資家から評価されるポイントとなっています。

レイオフ発表後に株価が上昇するケースも珍しくありません。これは、市場が短期的なコスト削減と利益率改善を好意的に評価している証拠です。

競争環境とコスト構造

業界内で競合がAIによるコスト削減を実現すれば、それをしない企業はコスト競争力で劣位に立たされます。これは「効率化の軍拡競争」とも呼べる状況を生み出しています。

たとえば、クラウドサービス業界では、各社が自動化とAI活用によって運用コストを削減し、その分を価格競争や新機能開発に振り向けています。この環境では、人手に頼った運用を続けることは、競争上の不利を意味します。

結果として、業界全体で人員削減の圧力が高まるのです。

短期主義と長期投資のジレンマ

しかし、この株主価値最大化の論理には問題もあります。短期的なコスト削減は財務指標を改善しますが、長期的な組織能力や人材育成、イノベーション能力への影響については十分に考慮されていない可能性があります。

経験豊富な従業員を削減し、その知識やネットワークを失うことの長期的コストは、財務諸表には現れません。また、AIに過度に依存することで、人間による創造的な問題解決能力や、予期しない状況への対応力が組織から失われるリスクもあります。

しかし、四半期決算に追われる経営陣にとって、これらの長期的リスクよりも、目の前の収益性改善が優先されることが多いのが現実です。

「効率化」の終着点はどこか

現在の流れが続けば、究極的には、AIで代替可能な業務はすべて代替され、人間は本当に人間にしかできない業務にのみ従事するという世界が訪れるかもしれません。

しかし、その「人間にしかできない業務」の範囲は、AI技術の進化とともに日々縮小しています。

企業は、コスト削減という短期的な経済合理性を追求していますが、社会全体で見れば、雇用の喪失は消費の減少を意味し、最終的には企業の顧客基盤の縮小につながる可能性があります。

この矛盾を、市場メカニズムだけで解決できるのか、それとも何らかの社会的・政策的な介入が必要なのか──これは今後数年で明らかになる問いです。

米国企業のレイオフは、AI時代における資本主義の最前線で起きている実験とも言えます。その結果は、日本企業を含む世界中の企業経営のあり方に影響を与えることになるでしょう。

次回は、「米日ギャップの本質」について迫ってみます。

APPSWINGBYは、最先端の技術の活用と、お客様のビジネスに最適な形で実装する専門知識を有しております。AIの開発・導入、システム刷新(モダナイゼーション)やシステムリプレース、新規サービスの設計・開発、既存システムの改修(リファクタリング、リアーキテクチャ)、DevOps環境の構築、ハイブリッドクラウド環境の構築、技術サポートなど提供しています。

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この記事を書いた人
株式会社APPSWINGBY
株式会社APPSWINGBY マーケティング

APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。

ご支援業種

情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数

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監修
APPSWINGBY CTO川嶋秀一
株式会社APPSWINGBY  CTO 川嶋秀一

動画系スタートアップや東証プライム上場企業のR&D部門を経て、2019年5月より株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTO。
Webシステム開発からアプリ開発、AI導入、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトまで幅広く携わる。
C, C++, C#, JavaScript, TypeScript, Go, Python, PHP, Java などに精通し、Vue.js, React, Angular, Flutterを活用した開発経験を持つ。
特にGoのシンプルさと高パフォーマンスを好み、マイクロサービス開発やリファクタリングに強みを持つ。
「レガシーと最新技術の橋渡し」をテーマに、エンジニアリングを通じて事業の成長を支えることに情熱を注いでいる。

APPSWINGBY CTO川嶋秀一
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動画系スタートアップや東証プライム上場企業のR&D部門を経て、2019年5月より株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTO。
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