AWSやGCP、Azureを使わないシステムのクラウド化 ~大手クラウドからの脱却
クラウド移行は、多くの企業にとってデジタル変革の重要な一歩です。しかし、AWS、GCP、Azureなどの大手クラウドプロバイダーを利用した移行は、必ずしも全ての企業にとって最適な選択肢ではないかもしれません。本記事では、これらの大手クラウドプロバイダーを利用しない「もう一つのクラウド化」の可能性を探り、そのメリットと課題、具体的な手法について解説します。
- 1. 1.大手クラウドプロバイダーの利用が最適解ではないケース
- 1.1. ベンダーロックインへの懸念: 特定プロバイダーへの依存リスク
- 1.2. 柔軟性とカスタマイズ性へのニーズ: 独自の要件に対応する必要性
- 1.3. セキュリティとコンプライアンス: 特定業界・業種における特殊な要件
- 1.4. レガシーシステムとの親和性: 既存システムとの連携の難しさ
- 2. 2.「もう一つのクラウド化」:選択肢としてのプライベートクラウド
- 2.1. プライベートクラウドとは何か: 基礎知識とメリット・デメリット
- 2.1.1. プライベートクラウドのメリット
- 2.1.2. プライベートクラウドのデメリット
- 3. オンプレミス環境との違い: コスト、運用、セキュリティ面での比較
- 4. 構築・運用における注意点: 技術的要件、人的リソース、コスト管理
1.大手クラウドプロバイダーの利用が最適解ではないケース
大手クラウドプロバイダーは、大規模なインフラ投資と効率的な運用により、利用料金の低価格化を実現しています。しかし、これは大量のサービス利用を前提とした「規模の経済」によるものです。小規模なシステムや、利用頻度の低いシステム、テストや検証、小規模な開発を繰り返すの場合、従量課金制の料金体系ではかえってコストが高くなる可能性があります。また、データ転送料やストレージ費用など、隠れたコストも見逃せません。
ベンダーロックインへの懸念: 特定プロバイダーへの依存リスク
大手クラウドプロバイダーのサービスは、独自の技術やAPIを基盤としているため、一度利用を開始すると、他のプロバイダーへの移行が困難になる「ベンダーロックイン」のリスクがあります。将来的に、より良いサービスや低価格なサービスが登場した場合でも、再度開発が必要になったりするなど大幅な改修が必要になるなどの要因から乗り換えが難しく、選択肢が狭まる可能性があります。
ある企業では、AWSの特定サービスに大きく依存したシステムを構築した結果、機能改善やコスト削減のために他のクラウドサービスへの移行を検討した際、仕様の変更による多大な改修時間とコストが必要となり、他のプロバイダーへの移行を断念せざるを得なくなりました。その結果、今も、毎月高額な従量課金によるコストを支払い続けています。
柔軟性とカスタマイズ性へのニーズ: 独自の要件に対応する必要性
大手クラウドプロバイダーは、多様なサービスを提供していますが、それでも全ての企業のニーズを満たせるわけではありません。特に、特殊な業界・業種や、独自のビジネス要件を持つ企業の場合、既存のサービスでは対応できないケースも出てきます。このような場合、柔軟性とカスタマイズ性に優れたプライベートクラウドや、その他の選択肢を検討する必要があります。
セキュリティとコンプライアンス: 特定業界・業種における特殊な要件
金融、医療、政府機関など、特定の業界・業種では、セキュリティやコンプライアンスに関する厳しい規制が存在します。大手クラウドプロバイダーは、セキュリティ対策に力を入れていますが、それでも全ての規制に対応できるとは限りません。特に、データの保存場所やアクセス制御など、厳格な要件がある場合は、プライベートクラウドやオンプレミス環境の方が適している場合があります。
レガシーシステムとの親和性: 既存システムとの連携の難しさ
長年運用してきたレガシーシステムは、最新のクラウド技術との親和性が低い場合があります。このようなシステムを無理に移行しようとすると、パフォーマンスの低下や、安定稼働の阻害につながる可能性があります。また、移行に伴うシステム改修には、多大な時間と費用が必要となる場合もあります。
ある企業が、基幹システムをクラウドに移行しようとした際、既存システムとの連携部分で多くの問題が発生し、移行プロジェクトが大幅に遅延しました。
2.「もう一つのクラウド化」:選択肢としてのプライベートクラウド
大手クラウドプロバイダーの利用が最適ではないと判断した場合、次に検討すべき選択肢の一つが「プライベートクラウド」です。プライベートクラウドは、自社専用のクラウド環境であり、柔軟性、カスタマイズ性、セキュリティなどの面で、パブリッククラウドとは異なる特徴を持っています。
プライベートクラウドとは何か: 基礎知識とメリット・デメリット
プライベートクラウドとは、特定の組織や企業内での利用に限定されたクラウドコンピューティング環境です。自社で構築・運用するか、外部のデータセンターに委託する形で提供されます。
プライベートクラウドのメリット
- 高い柔軟性とカスタマイズ性: 自社専用の環境であるため、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク構成などを自由にカスタマイズできます。
- セキュリティとコンプライアンス: データを自社内で管理できるため、セキュリティリスクを低減し、コンプライアンス要件を満たしやすくなります。
- パフォーマンスの最適化: 特定のアプリケーションやワークロードに合わせて、リソースを最適化できます。
- コスト管理: 長期的な視点で見ると、パブリッククラウドよりもコストを抑えられる場合があります。
プライベートクラウドのデメリット
- 初期投資と運用コスト: ハードウェア、ソフトウェア、運用人員など、初期投資と運用コストがかかります。
- 技術的な専門知識: 構築・運用には、高度な技術的専門知識が必要です。
- スケーラビリティの制限: パブリッククラウドに比べて、スケーラビリティ(拡張性)が制限される場合があります。
オンプレミス環境との違い: コスト、運用、セキュリティ面での比較
プライベートクラウドは、オンプレミス環境とパブリッククラウドの中間に位置する選択肢です。以下に、それぞれの違いを比較します。
項目 | オンプレミス環境 | プライベートクラウド | パブリッククラウド |
コスト | 初期投資が高額 運用コストもかかる | 初期投資は必要だが、運用コストは抑えられる | 初期投資は不要、従量課金制 |
運用 | 自社で全て管理する必要がある | 自社または委託先で管理 | プロバイダーが管理 |
セキュリティ | 自社でセキュリティ対策を実施 | 自社または委託先でセキュリティ対策を実施 | プロバイダーがセキュリティ対策を実施 ※詳細やセキュリティ事故発生後の対応は自社 |
柔軟性 | カスタマイズ性は高いが、拡張性は低い | カスタマイズ性と拡張性のバランスが良い | 拡張性は高いが、カスタマイズ性は低い |
構築・運用における注意点: 技術的要件、人的リソース、コスト管理
プライベートクラウドの構築・運用には、以下の点に注意が必要です。
- 技術的要件: 仮想化技術、ネットワーク技術、セキュリティ技術など、高度な技術的専門知識が必要です。
- 人的リソース: 構築・運用には、専門知識を持った人員が必要です。
- コスト管理: 初期投資だけでなく、運用コスト、メンテナンスコスト、人件費なども考慮する必要があります。
プライベートクラウドは、適切に構築・運用されれば、柔軟性、セキュリティ、コスト効率などの面で大きなメリットをもたらします。しかし、導入には慎重な検討と計画が必要です。自社のニーズと状況をしっかりと見極め、最適なクラウド化の形を選択しましょう。
次回は、”3.プライベートクラウド構築を成功させるポイント“についてご紹介します。
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この記事を書いた人
株式会社APPSWINGBY マーケティング
APPSWINGBY(アップスイングバイ)は、アプリケーション開発事業を通して、お客様のビジネスの加速に貢献することを目指すITソリューションを提供する会社です。
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情報・通信、医療、製造、金融(銀行・証券・保険・決済)、メディア、流通・EC・運輸 など多数
監修
株式会社APPSWINGBY
CTO 川嶋秀一
動画系スタートアップ、東証プライム R&D部門を経験した後に2019年5月に株式会社APPSWINGBY 取締役兼CTOに就任。
Webシステム開発からアプリ開発、AI、リアーキテクチャ、リファクタリングプロジェクトを担当。C,C++,C#,JavaScript,TypeScript,Go,Python,PHP,Vue.js,React,Angular,Flutter,Ember,Backboneを中心に開発。お気に入りはGo。